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Fate/insanity banquet
Fifth day
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出来ない。少年のものにしては細い士郎の首に、彼女はゆっくりと力を入れていく。彼女のしなやかな指はしっかりと頸動脈を押さえているようで、士郎の視界はだんだんとぼやけていた。
 遠くを見るように虚ろな瞳、口は酸素を求めて小さくはくはくと息を漏らしている。士郎のその表情を見ると、彼女は頸動脈を押さえていた指にさらに力を込める。士郎の頬は赤く染まり、目からは涙が一筋流れ落ちていた。
 前にもこんな状況があった。
 夢で、あの少年が自分の首をゆっくりと締めていく。あれは夢であったが、これは現実だ。
 苦しい、息が出来ない。
 このままでは、死んでしまう。
 でも、こんな状況を、自分は求めていた?
 このまま、意識を失ってしまいたいと思っていた?
 それは、いつから……。
「あなたは、あの子の大事な……」
 あの少年が、最後にすがるように士郎に言った言葉。その言葉が合図だったように、士郎の意識が覚醒する。力が入らない手を叱咤し、両手で力いっぱい彼女を突き飛ばす。彼女はその衝撃で士郎の首から手を離してしまう。
「っ、が、げほっ、ごほ……」
 溜めていた息を吐き出し、激しく咳き込む士郎。足の力は抜けてしまい、床に座り込んでしまう。
 座りこむ士郎の前に、彼女はにっこりと笑みを張り付けて立つ。かなり力を入れたつもりだったが、彼女は特にダメージを負っていなかった。
「冗談よ、あなたが死ねば、サクラが悲しむもの。大事な友達が悲しむところをわたくしは見たくないもの」
 サクラと聞き馴染みのある名を聞き、ますます彼女が何者か分からなくなる。うっすらと涙が滲む目で、彼女を下から睨みつける。それに彼女は肩を竦めて見せ、ぐっと顔を近付ける。
「わたくしのお遊びに付き合ってくれたあなたに、一つ助言をしてあげるわ。もしあなたが、この平穏を今までと同じように望むなら、敢えて危険な道に足を伸ばすなんて考えないことよ」
 彼女は士郎の額に唇を落とすと、言葉を続ける。
「そうね、例えば、魔術によって作られた猫の言うことは、あまり信用しない方がいいかもしれないわ。案外、猫の皮を被った悪魔が潜んでいるかもしれなくってよ」
 彼女はそう言うと立ち上がり、廊下を立ち去って行った。とりあえずの脅威が去ったことで、士郎は大きく深呼吸をする。
「何だったんだ……」
 かなり長い間締められていたせいか、首にまだ違和感が残っている。痕が残っていないといいが、と思い士郎は立ち上がる。
 そこで、自分の頭が妙にスッキリしていることに気が付く。寝不足とは少し違う、ここ数日もやもやと霧かかったようだった脳内が晴れ渡っているのだ。
「……とりあえず、生徒会室に行くか……」
 まだ少しふらつくが、このくらいなら大丈夫だと自分に言い聞かせ、士郎は目前の生徒会室に足を進めた。



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