暁 〜小説投稿サイト〜
Fate/insanity banquet
Fifth day
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室に向かおうと廊下を歩いていく。あと少しで目的地、というところで後ろから肩を叩かれる。誰かと思って振り向くと、そこには黒髪の小麦色の肌をした少女が立っていた。日本人離れしているその顔立ちから、留学生だろうと判断する。自分よりも少し高い背の彼女は、ずいっと士郎に手を突き出した。
「衛宮士郎、これ、落としていてよ」
 彼女の手にあったのは、自分の学生証だ。
「あ、ありがとう。気が付かなかった」
 いつの間に落としていたのだろうと疑問に思うが、自分の手元に戻って来たため、それは良しとする。
「あの、どこかで会ったっけ?」
 いつの時代のナンパだ、と自分にツッコミを入れてしまう。だが、彼女は気にしていないようだ。
「直接こうしてお話するのは、初めてね」
 そう言うと、彼女は士郎の頬を両手の掌で包み込む。
「……」
 突然の行動は止める間も無かった。じっと士郎の琥珀色の瞳を見る彼女は、士郎を観察しているように見える。
「な、何か?」
 その視線が気まずく、思わずそう聞いた士郎。
「いえ。あなたは面白い人間だと思って」
 返されたのは、自分が賛同しかねる言葉だった。彼女の「面白い」という言葉に、士郎は首をかしげる。初めて出会った彼女に、面白い、と言われるほどの事を、自分はしたつもりはないのだが。彼の反応すら分かっていたように、彼女は声音を明るくして続ける。
「あら、あまり言われたことの無いことだったかしら? 少なくとも、わたくしの目にはそう映ったけれど」
 くすりと笑みを漏らすと、彼女は愛おしい物を見るような目で士郎をその瞳に映す。
「様々な因果が絡み合って、ここにいるあなたの存在は、とても完成されたものだわ。今まで見てきた人間の中で、一番美しい魂。あの子が、あなたを好きになるのも、分からなくもないもの」
 彼女はそこまで言うと、すっと目を細める。
「それなのに、あなたはこうして息をするのも苦しいのね」
 どきりと心臓が脈動するのを感じる。心が否定する、違うと。だが体は正直で、彼女から僅かに一歩足を引いていた。彼女の言葉をこれ以上聞くなというように。
「美しい魂を持っているのに、それを包む心の皮はひどく歪で、ズタズタに裂けて壊れている。まぁ、器としてみれば最高だけれど。罪悪感に押し潰されそうなのに、ただ一つの理想のために必死に立っているその姿。イラっとくるほどあの子とそっくりね」
 器、あの子、という分からない言葉がぐるぐると回る。
「ねぇ、衛宮士郎。わたくしがあなたの息の根をここで止めたとしても、あなたは後悔しないのかしら」
 彼女の手が士郎の頬から、するりと下に降りる。首にたどり着くと、優しく一撫でする。その仕種に、士郎は体を震わせる。脳内の危険視号が点滅しているというのに、士郎は魔法にでもかかったかのように動くことが
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