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Fate/insanity banquet
Fourth day
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箪笥。家具といえばこの三つしかない。机に備えついている引き出しを見るが、何もそこには無かった。この部屋に、マトウカリヤがいたという痕跡は何一つ残っていない。それは少し寂しいようで。
「いや、当然か」
 小さくそう呟き、雁夜はランドセルを机の上に置く。ふぅと息をつき、彼は思いを巡らせた。

 雁夜は、幼い頃から「マトウ」という言葉を知っていた。その言葉は「彼」が最も嫌っていた言葉であった。自分は「彼」とは違うという意味でその言葉を嫌ったりはしなかった。いつか、自分は「マトウカリヤ」になるものだと気が付いていた。
 雁夜は、自分の中に眠る一つの記憶を知っていた。それが芽生えたのは、今から三年前。大病を患った時のことだ。何か月も彼は病院のベットの上で苦しんだ。熱にうなされ、体の痛みに呻く。自分の体が、他の誰かの物になったように、上手く動かない。それどころか、自分が今生きているのかさえ分からないほどの苦しみ。拷問のような毎日を過ごし、いつしか自分の死を望むようになっていた。死んでしまえば、この苦しみから解放されるのでは。それならば、いっその事、死んでしまいたいと思ったのだ。
 そんな中、高熱に悩まされ、自分が現実にいるのか夢を見ているのか分からなくなっていた夜のこと。雁夜は一人の男の夢を見た。ぼろぼろの体で、今にも死んでしまいそうな彼は、その体を奮い立たせ、前に進む。その後ろ姿は頼りない。だが、彼の瞳には強い意志が灯っていた。体が引き裂かれていようと、ただ一つの想いを胸に立ちあがる姿は、神聖なモノのように思えた。それを見た後、雁夜はほんの少しだけ、生きていたいと思った。あんな姿になっても、人間は生きられる。だったら、自分もまだ頑張れるのではないか、と思うことが出来た。それは、雁夜の失っていた希望のようなものだ。それから一週間後、彼の病は一旦落ち着きを見せた。
 意識がはっきりとするようになり、何か月かぶりに両親と話した日のこと。
雁夜はそれを視た。
否、思い出していた。前世の記憶という形で。
七年間という雁夜の生きてきた年月の記憶を押し潰そうとして、それは彼の中に流れ込んでくる。その中身は、幸せな記憶などほんの一部。後は全て憎悪によって埋め尽くされていた。
愛した人の幸せも分からずに。
自分の中の矛盾に満ちた想いにも気が付かず。ただ、一つの希望を求めて奔走した彼には何も残らなかった。
彼の一面だけの記憶ではなく、感情を交えた記憶を見たことでマリヤのその男への評価は変わった。
「ダメ人間」
 かつてのマトウカリヤに下した結論がそれだった。
殺人未遂、職務放棄、ストーカーなど他多数。七歳の子供が知るには、些か刺激の強いものを雁夜は視た。あれが自分の前世だというのは、かなり頭が痛い。頭だけでなく、心も痛い。だって、「俺のサーヴァントは最強な
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