Third day
[8/24]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ったのは自分だが、まさかここまで優しく世話を焼いてもらえるとは思っていなかった。凛は、自分をまるで弟のように扱ってくれる。家族のように接してくれる。時臣にとっては、そういった家族愛のようなものはほとんど感じたことの無い物だった。
時臣は、決して恵まれたとは言えない生を送ってきていた。彼の父親と母親はもういない。彼の生まれた日に、違う場所でそれぞれ命を落としたのだという。
彼の母は元々心臓に病を抱えていた。それでも彼を出産することを決め、出産に望んだ。赤子は何一つ問題なく生まれた。それに安堵したのも束の間。彼女は彼を出産した後出血が止まらず、医師たちの努力もむなしく、命を失った。
一方彼の父は、仕事場から病院に向かう時に命を落とした。出産が近いという連絡を受け、電車で病院に向かうためにホームにいた時だ。早く駆けつけたいという気持ちのためか、一番前で電車を待っていた。そして、彼の後ろに立つ男は、電車が来た瞬間、彼の背中を強く押した。驚く間も彼には無かったはずだ。恐らく即死だっただろうと、到着した救急隊は語ったという。
陳腐な昼ドラマのワンシーンのような、この偶然の悲劇はそうして起きた。
まるで二人の命を代わりに生まれたかのような彼を引き取ったのは、彼の父の妹、彼にとっての叔母にあたる人物だった。子供が好きだと話していた彼女は、時臣を快く受け入れた。たった一人になったこの赤子を救えるのは、自分しかいなのだと思って。彼女は自分の本当の子供のように彼を愛した。
だが、共に暮らすにつれて、彼女はあることに気が付いた。時臣は、自分の兄である父親にも、自分の義姉である母親にも似ていないということに。日本人離れした青の瞳にゆるいウェーブのかかった茶色の髪。自分の兄も義姉も、生粋の日本人であった。だから青の瞳の事もが生まれるはずは無い。最初に彼女が疑ったのは、代理母出産だ。だが、心臓の弱かった義姉がわざわざそんなことをするはずがない。それならば、誰にも似ていないこの兄と義姉の忘れ形見は、一体誰なのか。
一度抱いてしまった不信感は、拭えない。いつしか彼女は、彼に辛く当たるようになっていった。愛していたはずなのに、彼を見ているだけで心が痛む。矛盾した感情は、彼女の心を蝕んでいくこととなる。
一方の時臣は、幼い頃からどこか冷めた感情をいつも持ち合わせていた。物心ついた時には両親はいなく、唯一の肉親である叔母には何故だか冷たく当たられる。だが、彼はそれを悲しむでもなく、ただ「自分はそうだっただけ」と割り切って考えていた。中のいい親子を見れば羨ましくも思うが、そういうものもある、と。彼は、叔母を憎みはしなかった。むしろ、歪んでしまっていながら、僅かに自分に向けている愛を嬉しくも思っていた。それでも、もし彼女の前から逃げ出せれば、いつでも逃げ出したいと思って
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ