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Fate/insanity banquet
Third day
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。これから先も、あなたが幸せを紡いでいってくれたら。それだけで、生まれてきた意味がある」
 彼女の言葉に、彼は首を左右に振って否定する。そんなことはない、あるはずがないと、彼の心が悲鳴を上げていた。
「違う、違う。ボクは、君と共にいなければ、幸せなんて無い。あるはずないんだ」
 彼女は目を閉じて、柔らかく微笑んだ。その笑みは、彼の心も未来も全てを知っているよう。
「ううん、きっと、あなたの前には、私なんかよりもずっとずうっと素敵な人が現れる。あなたを、最高の王に導いてくれる、そんな女性が」
 確信を持って告げられる彼女の言葉は、彼の心を抉る。どうして分かってくれないのだろう。どれだけ美しく、賢い、素晴らしい女性が現れたとしても、自分はその女性を目の前の彼女ほど好きになることは出来ないだろう。
彼女は自分の全てだ。
 自分に生きる意味を教えてくれた。
 自分に人を愛することを教えてくれた。
 彼女の存在は彼にとって、生きる意味だといっても過言ではなかったのだ。それなのに、彼女は自分の前から消えてしまう。自分は彼女に何も返すことが出来ないまま。
 少年の頬に、一筋の涙が流れ落ちていく。それは、彼女を失うことの悲しさか。彼女をこの世界に留めることの出来ない自分の無力さか。彼女は人差し指で彼の涙をそっと拭った。
「泣かないで、王。私のために流してくれる涙は嬉しい。でも、あなたは私なんかのために泣く必要は無い。あなたは、もっと偉大な人なのだから」
 偉大な人、という言葉を否定するように彼は首を横に振る。
「ちがう、ボクは、ただの罪人だ。償えない罪を持った、呪いの……」
 そこまで彼が口にした時、彼女は人差し指でその続きを止める。驚いて彼は彼女を見つめる。彼女のアメジストの瞳には、光が灯っていた。
「神に最も愛されし御子に、祝福あれ。あなたとあなたの王国に、栄光あれ」
 歌うように賛美の言葉が告げられる。
「王よ。これが私の今生、最後の願い」
 彼女が顔を寄せ、少年の唇を自分のもので塞ぐ。すぐにそれは離れ、彼女は満足そうに微笑んだ。
「あなたの未来に幸あれ」
 そう告げると、彼女はゆっくりと瞼を閉じる。その言葉を告げるのが役目であったように。その瞼が再び開かれることは無いと、彼はすでに悟っていた。彼女の手を握りしめながら、苦しみに喘ぎながら彼は言う。
「ボクは、幸せになるべきじゃない。ボクは、幸せになってはいけない。それなのに、君は、ボクの幸せを願うというのか」
 彼女との日々は幸せだった。罪を持った自分も、彼女と共にならば幸せを望んでもいいのだと思うことが出来た。そして、彼女がいなければ、自分は幸せを望んではいけないのだと、そう思っていた。だが、彼女は自分の幸せを願った。
 彼は、何かを決めたように彼女の手に口づけをする。
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