Third day
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よ」
立ちあがった彼を、傍に控えていた臣下のうちの一人の青年が呼び止める。歩き出した彼は、その足を止めた。青年は膝をつき、懇願するような声で彼に意見する。
「行ってはなりません。王は、穢れに触れてはならない。死の穢れは、あなたの魂をも汚してしまう。どうか、この場に留まり下さい」
少年は唇を噛みしめ、苦痛に顔を歪ませる。もちろん知っている。死の穢れは、神に選ばれし王である自分が触れるべきではないものだと。それでも、自分はあの女と共に居たい。最期の時を過ごしたい。一度それを考えると、もう止めることは不可能だった。
「止めるな」
はっきりと彼はそう一言告げる。王としての義務よりも、一人の人間としての選択を為した表れだった。
「ボクが、生まれながらにして背負って来た罪を思えば、死の穢れなど微々たるもの。ボクは、愛した者さえも看取らない、非道な人間にはなりたくない」
彼はそう言い、その場を後にする。王ではなく、ただ一人の少年としての彼の背中は、とても小さいものであった。
彼が向かったのは、愛する妃の部屋。何人もの侍女たちがその部屋はいる。侍女たちは、病によって起き上がることの出来ないその人を世話するため、大勢呼ばれている。部屋の主である女性は、死に抱かれ、あと数刻とその命は持たないだろう。そこには、確かに死の香りがあった。
少年が部屋の入り口に立ったことで、侍女たちは慌てて道を空ける。彼は侍女たちに外に出るように告げ、部屋の寝台へ歩を進めた。
「王……。なぜ……?」
掠れた声だった。病によって痩せ細り、やつれてしまった彼女だが、その瞳にはしっかりと彼を映している。彼は困ったように微笑み、彼女のそばに腰を下ろした。艶の無くなってしまった彼女の長い金の髪を、愛おしそうに優しく撫でる。
「ボクは、君を愛している。最期の時まで、君のそばにいる。君は、ボクが唯一好きになった女だ。君と、離れたくない」
そう言って髪に口づけを落とす。顔を上げた彼は、まるで幼子が母とはぐれた時のように不安に揺れている瞳だ。そんな彼を見て、彼女は悲しそうに眉を下げる。
「王よ、分かって下さらないのね」
彼女の口から告げられた言葉に、彼は戸惑いを見せる。
「私は、あなたに出会えて幸せだった。あなたと共に過ごした時間がある。それだけで幸せなの」
彼女は彼に微笑みかける。それを見て、彼は彼女の両手を自分の手で包み込む。そして必死な様子で彼女に語り掛ける。
「あぁ、ボクだって幸せだった。君がいなければ、ボクはここにはいないから。ボクは、君を失いたくない。まだ、君と共に幸せを作って行きたいんだ」
彼女はゆっくりと彼の頬に手を当てた。そして、優しく頬を撫でる。白く細い手は、今にも折れてしまいそうなほどだ。
「私はね、あなたが幸せだったらそれでいいの
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