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Fate/insanity banquet
First day
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彼の優しい声に、子供たちは頷いた。
「うん」
「はぁい」
 素直に返事をして、男子を前にして四人はもう一度しゃがむ。子猫は探るような視線を向けてくる。だが、彼らの心境の変化を悟ったのか、恐る恐るといったように近づいてくる。彼らの前にちょこんと座った子猫を見て、子供たちは口を開く。
「ごめ……」
 その後に続こうとした言葉は遮られた。何によってか、というとそれは謝られていた本人である子猫によって。
「ぎゃあああ!」
「うわあああ!」
 二人分の悲鳴が狭い路地に響いた。
 相手に近づき安心させておいて、子猫はゴムボールのように跳ねると一人目の頬に爪を立てる。間髪入れずに次はもう一人に。時間にしておよそ一秒ほどの事だろう。顔に赤い線を幾つも作った二人は、目から大粒の涙が流れていた。男子二人は、「うわああん」と叫びながら路地裏から逃げ出す。
 その様子を唖然と見ていた士郎と、二人の女子。猫の応戦はそれだけでは終わらなかった。ばねのように体をしならせると、少し離れて立っている女子に向かって、猫パンチをお見舞いする。
「きゃあああ!」
「いやあああ!」
 こちらは特に痛くない気もするが、今まで外野だった二人を驚かせるのは十分だったようで二人も目に涙を溜めながら走り去っていってしまった。
 どことなく自信ありげに胸を張っているような気のするこの子猫は、路地裏に残っている士郎に目を向けた。次は自分の番か、と士郎は身構えるが、それもまた期待を裏切られる。
 子猫は士郎の右足に近づいたかと思うと、その顔を制服の裾にすりすりと擦り付けてきた。
「あれ、俺は引っかかれないんだ」
 少し拍子抜けしたようだが、士郎はしゃがんで猫の頭を撫でてやる。ごろごろと喉を鳴らす。
 ぺろぺろと子猫は腕の中で右腕を舐めている。その頭をよしよしと撫でる。すると、士郎の手に顔を摺り寄せてきた。先ほど子供たちに攻撃を仕掛けた本人、いや本猫とは思えないほど安らかな表情だ。猫は気まぐれとは聞くが、こんなものなのだろうか。
 とりあえず家に帰らねば、と思い士郎は歩き出す。すると。
『ニンゲンに拾われた方が、マリョクを回復しやすいのだ。このニンゲンを使ってやるのだ』
 まだ声変わりのしていない、少年の声だ。思わず辺りを見回すが、行き交う人の中に今の声が当てはまるような人間はいない。思わず自分の抱える子猫に視線を落とす。だが、子猫はもちろん何も言わない。士郎の視線に気が付いてか、子猫は彼の琥珀色の瞳をじっと見つめる。数秒、猫と視線を合わせた士郎は、こう結論つけた。
「ま、いっか」
 そんなことよりも、今は夕食を待っている、うちのはらぺこ騎士王の元に早く帰らねば。どら焼きに、折角おじちゃんがおまけしてくれたおまんじゅうもあるのだ。帰った時の彼女たちの笑顔がみたい、そう思い
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