暁 〜小説投稿サイト〜
口〜春蘇与儀詩集〜
あなたの体に

[2]次話
誰かに愛されたくて 泣いているのか
虐められた恨みをはらしたくて 泣いているのか
冷たい外の風に切り刻まれた痛みで震えているのか

甘い匂いのする女のヒフに堪えきれず
恋人でもない人間の肉に食らい付いた夜を思い出して
やりきれない悲しさと 心の裏側からゾロゾロと湧き出てくる
生暖かいざわめきが溶け込んだ胸の血が
体中に広がっていく感覚に怯えているのか

怖がるのは一人になった時だけだけれど

誰かを不幸にしたくて 脳を使うのか
誰かを楽しませたくて 金を投げるのか
人より幸せをかき集めて 気を落ち着けるために
ウソばかりついているのか

子供の時に母親にひどい事ばかり言った記憶に
風邪の時に炊いてくれた雑炊の優しさが食い込み
その割れ目からゴボゴボと溢れてくる紫色をした
死んでしまいたいほどの恥ずかしさを
血走った目で噛み砕いてまで生きているのに

あなたの体には 触れられず
記憶だけが 空しく残る
[2]次話


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