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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十話 苗川攻防戦 其の二
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大隊 側道方面防衛隊司令 新城直衛大尉

「ん?」
千早の訴える様な視線を受け、新城は緊張した声で命令を発した。
「増谷曹長!探ってくれ!」

「はっ!」
疲れきった導術分隊長が意識を集中し、数瞬を経て報告する。
「大尉殿 敵は前方十三里の位置で停止しています、数はおそらく五百程度、騎兵です」

――さてさて此方は300弱。向こうは600強か。常道通り砲で叩いて射撃で掃討、
その後に剣虎兵で攻撃、だな。これで犠牲は最小限で済む。
「よろしい標定射撃痕に接近し次第砲撃開始。」
恐怖に震える手を押さえ、自嘲の笑みを浮かべた。
――いやはや情けない。良くもまぁ未だに将校の演技を続けられている物だ。
「敵が補給を受けた様子はないのだね?」
「はっはい。昨日から交代で探索を行なっておりますが払暁に渡河した部隊以外が敵部隊と接触した様子はありません」
 ――つまりは後方からの補給は不十分か、輜重部隊は本隊から絞り出したなけなしの糧秣を運んでいたのか?その補給を受けてから仕掛ける気か。

「どちらにせよ騎兵一個大隊を賄うには不十分だな」
  ――駄載させないと渡河は出来ない、駄載させる分、馬の数も増える。護衛の分を考えれば尚更だ。大まかに考えて二個中隊弱いがやっとだろう。

 第十一大隊は半里前方に剣虎兵小隊と観測班を置いており、彼等も身を隠し情報を伝えてくれる。
連絡役の増谷曹長は消耗が激しく、休ませているが明日からまた働いてもらわなくてはならない。

「金森二等兵、後は増谷曹長から連絡が来るまで権藤軍曹の所で休んでいろ。
猪口曹長、運んでやれ。」

「はい、大尉殿。」
猪口が背負って運ぶ少年兵は新城の事を信じきった目で見ている。

 ――まだ子供だ。
じくり、と心情の中で何かが疼いた。
 ――今はまだ上手く事が運んでいる。生きて帰せるかもしれない、あの子供の様な兵を。

「・・・・・・」
 

 ――だが、正面陣地が突破されたら?
 ――僕がヘマをして敵に敗れたらどうなる?
手が震え、もはや形式主義的なその震えに自嘲の笑いがいつもの様に浮かぶ。
 新城はいつものごとく己の卑小な人格を確認し、戦場を構成する要素として設定した。


金森二等兵は遠目にその笑みを見て安堵した。
――あぁ少佐も大尉も僕達を使って皆を、仲間を守ってくれている。
――それならば、術力が擦り切れようと、導術兵の本望です。
――それで皆を救わせてくれるのなら。戦友を、内地の家族を守れるのなら。
――僕達は、僕は、それを、この部隊に居る事を、誇りに思います

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