オーバーロード編
第9話 兄妹の友好な関係
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体調不良につき欠席って貴虎さんに伝えとくわ。碧沙と一緒にゆっくり休めよ》
「ちょ、裕也さんっ」
プツ、プープー。
通話が切れた。光実は仕方なしにスマートホンをポケットにしまった。
(……気、遣ってくれたんだよな、きっと。僕が碧沙に付き添えるように。そういうとこ、チームにいた頃から変わらないなあ)
光実は部屋の前のカードリーダにユグドラシルの認証カードを当て、再び「待合室」を開けて中に入った。
戻ると、碧沙は大人しくベッドで横になっていたようで、光実はほっとした。
「電話、誰からだったの?」
「裕也さん。大したことじゃないから」
「そう――」
兄妹の間に沈黙が下りた。
いざ勇んで二人きりになってみたはいいが、光実は碧沙に何を話せばいいか皆目見当がつかない。それは碧沙とて変わるまい。
何とか話題を捻り出そうと脳をフル回転し――
「碧沙は、さ、いつからビートライダーズを始めたの?」
碧沙は目を白黒させた。今の光実には、穏やかな顔を繕いつつ、「地雷でありませんように」と祈るしかできない。
「9月からよ。……欠席が続いた時、巴がプリントを届けに来てくれたの。最初の頃は人が入れ替わり立ち代わりしてたんだけど、みんなめんどくさがって、段々来なくなって。みんながやめてく中で、今でもやめないでプリント届けてくれるの、巴だけなの。その時、思った。『もし組むならこの子がいいな』って」
ささやかで、でも思春期の少女たちには、ガラスのように奇麗で大切な思い出。
「学校で思い切って誘ってみたら、後で巴が他の生徒に詰め寄られてた。学校じゃ『身分違い』だから。隠れられる場所を探して、改めてお願いしたわ。巴、最初は『自分なんか』って言ってたけど、承知してくれた」
「そんなことがあったんだね――」
学歴を重んじる学校に進学すれば、ままある現象だ。上と下に何でも分けたがる。光実自身も通ってきた道だ。
「でも、一番は、光実兄さんがビートライダーズしてたからかな」
「僕?」
碧沙はおかしそうに笑った。
「わたしは家でも学校でも『呉島の娘』として気を張ってるっていうのに、兄さんだけあんなに楽しそうでずるい、って」
「あ〜……」
自分自身、妹とほぼ同じ動機でチーム鎧武入りした身だ。苦笑すら返せない。
「でも、おかげで巴っていう最高の友達を見つけられたわ。ビートライダーズさまさまね。兄さんだってそうでしょ? 好きな人、とか」
「な、なんで知ってるの!?」
「なんとなく」
忘れていた。この妹の「なんとなく」は預言並みに当たるということを。
イニシアティブを握られたまま、それでも、いつのまにか楽しくなっていたおしゃべりは続くのであった。
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