覇王居らずとも捧ぐは変わらず
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とした。
――新末後漢初の再現に見えるだろう。語り継がれる歴史意識と根付いた儒教思想は民衆を支配し得る。現状維持の選択をしてしまうモノは、人として普通の思考だ。旧い者ほど変化を恐れる……あれだけ発展してた現代でも、そうやってゆるりと崩壊していったモノは多い。曹操殿や俺が目指す世界は屍で階段を作らないと手に入らないのも問題、か。
大それたことを……と、彼は自身に自嘲する。
政治家でも無い。英雄でも無い。軍の人間でも無い。何か特別な存在だったわけでも無い。
人を殺す力を与えられただけの自分が立ち向かおうとしている壁の強大さを再確認した。
それでも、欲しい。打ち壊したい、作り上げたい……その願いが、胸の内にはあった。嘗ての自分とは違い、もはや矛盾は無い。
ふと、月から視線を向けられている事に気付いた。じ……と見やるその目は儚げながらも厳しさを含んで……否、貪欲な輝きにも見えた。
秋斗の答えを、彼女は求めていた。自分の糧と出来るように。
「ありがと、えーりん。その説明を聞いた上で言おうか。
劉表の思惑は曹操殿も予測してるだろうから、面倒な外部は任せておけって事だと思う。目の前の戦よりも乱世の行く末を優先したのさ。自分の成長、部下の成長、兵の成長、全てを高めるのも、ゆえゆえが言ったように理由の内かな。軍師達の思考負担を減らすってのも一つか」
「月の言った事も確かにあるだろうけど、少なからず兵は不安を感じてるわよ?」
「ウチの部隊の奴等にも、若干の不安はあるみたいやで? なんやそわそわしてる感じで落ち着かへんし」
「拭わせるさ。全てを良い方向に向けさせるのが俺の役目だろうからな。兵の心理掌握はそれぞれの部隊を預かる将達がやる……が、部隊毎だけじゃなくて軍全体として纏めさせるには“名代として送ってある黒麒麟”を使えばいい、あの人が考えてるのはそんなとこだろ」
「それじゃまたあんたが……」
――嘘をつく事になるわよ
寸前の所で飲み込んだ言葉。微笑んだ秋斗は気にするなと首を振って伝える。
「クク、何もするなとも言わず、追加指示も無いから期待してくれてるって思っとく。出来なかったら罰則だろうけどな。ホント、あの人は厳しい人だ」
楽しげに言う秋斗に不安の色は見られず、皆が一様な表情を浮かべていた。
「兄やんはそれでええん?」
別の誰かのマネをして、それをする事に期待され続けているなんて。
優しく、心配そうに見つめてくる真桜からの問いかけにも、緩い表情は崩れない。
「俺がそうしたいんだよ。別に黒麒麟の名を利用するくらいどうってこたないだろ? 気のいいバカ達や、お前さん達皆の為になるなら」
彼が浮かべた笑顔は純粋な想いからか綺麗に見えた。瞳には哀しみの欠片も見当たらず。
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