語り部と火竜と紅蓮
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不気味な箱からうじゃうじゃと飛び出すそれを、クロノは嫌そうな表情で見つめる。虫が嫌いな訳ではないが、見つけるとつい飛びずさってしまうのだ(ティアとクロスと同居していた頃は、どんな虫もティアが無言で叩き潰していた)。
「さあ、どうするクロノヴァイス君。君が行動しない限り蠅の悪魔は増える一方だよ?諦めるようならそれでも構わないが、それじゃあ興醒めだね」
くつくつと笑うジョーカー。
ここに滅悪魔導士となったココロがいればどんな悪魔も怖いモノなしだが、生憎彼女はここにいない。序でに言えば、クロノ達は彼女が滅竜魔法を失い滅悪魔法を得た事を知らない。
「ったく……仕方ねえな」
ふぅ、と息を吐いたクロノは、ミョルニルを返した。
そのあっさりとした行動に味方であるレビィ達も敵であるジョーカーも目を見開く。が、ジョーカーはすぐに笑みを取り戻し、残念だというように肩を竦めた。
「諦める方を選ぶのか…残念だよ。君は強いと思ったんだが。まあ、神話を語る程度じゃ罪には勝てない…という事だよ」
「……何言ってんだ?」
首を横に振るジョーカーに、クロノが怪訝そうな顔で問う。
ハッとしたように顔を上げたジョーカーを真っ直ぐに見つめるクロノは、右手を前に突き出した。その顔には変わらず余裕たらたらの笑み(虫がいる為か少し引き攣っているが)。魔法陣が展開し、零れる光が武器を形作る。
それを視界に入れながら―――――クロノは、叫んだ。
「最高神オーディンに命じる!“穂先に誓うは勝利、投げてやるから勝敗を決めろ!”」
右手に握られるのは、槍。
悪神ロキが地底に住む黒侏儒達に作らせオーディンに献上した投槍。この槍がオーディンによって戦場の上に投げられると戦いの勝敗が直ちに決まる魔法の武器であり、その穂先に懸けて誓った言葉は決して破ってはならないとされていた。
そんな槍―――――グングニルの穂先にクロノは勝利を誓うと、力一杯にぶん投げる。
何もない、空中に向かって。
「コントロールが出来ていないようだね、それじゃあ僕には当たらな――――――」
い、と完全に言い終える前に、クロノがニヤリと笑った。
その顔は言葉通りに不敵であり、何かを企んでいるようでもあり、目的があって何もない場所に投げたようで。
嫌な予感がしてジョーカーが槍を見るべく上を向くと、グングニルは真っ直ぐに向かっていた。
「!暴食を狙って……!?」
「行っ……けええええええええええ!」
ジョーカーの驚いたような声を掻き消す勢いで、クロノが吼えた。
その声に後押しされるように、グングニルは勢いよく箱目掛けて飛ぶ。その穂先がキラリと輝き、近づく蠅の悪魔を容赦なく貫いていく。
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