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王道を走れば:幻想にて
第三章、その5の1:昔語り ※エロ注意
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言ってるよ」
「ならばやらせていただきましょう。血の池に無様な骸を晒せ、怪物」
「ついでに俺等の命の糧になってくれ、木偶人形」

 凛然と剣を正眼に突きつけるミルカの傍ら、慧卓は脂のような滑らかさを柄に乗せた鉄剣を血池から拾おうとする。途端に、相対する男が剣を片手に持ち直してそれを顔の横に地面と平行に掲げた。慧卓が危機感を覚えて血池に身体を投げ出すのと同時に、男はほとんど無反動なまでの動態で剣を投げつけた。

「ちょおおおおっっ!?」

 悲鳴を漏らす慧卓の後頭部、その直ぐ上を凄まじき勢いで剣が通過する。そして真新しさを残す綺麗な石壁に砕かれる事無く、その切っ先を鋭く埋めた。物理に対する認識を凌駕する、人並み外れた膂力である。

「ごめん、俺仕事放棄していいかな?」
「働きやがりなさい」
「はい」

 慧卓は傷一つ負わずに血塗れとなった身体を起こし、改めて剣を男目掛けて正眼に構える。対する男も、床に伏した死骸から新たに剣を引き抜き、それを得物として上段に構え直した。

(さってと・・・いっちょ奮起しますか)

 鮮血で赤く染まった頬に透明の汗を垂らしながら、慧卓は静かに深い呼吸をした。場に篭っていく刺々しい空気に心臓が早鐘を打っていき、慧卓の頬は熱を帯びていった。




 
 慧卓等が建物に到着するよりも幾分か過去に遡る。早々に到来した憲兵達は件の傀儡兵に相対し、その剣戟の蛮声を階下に高らかに鳴らしていた。ビーラはそれを眉一つ動かさず静かに聞いている。男に対しては洗脳の魔術と同時に、一種の付呪を刻み込んである。人体に本能的に掛かっている力の制御を、強制的に、そして肉体に限界が来すまで半恒久的に外す呪いである。限界の到来は肉体の瓦解、即ち男の死に直結し、洗脳が解けた場合でも押さえ込んでいた負荷が一気に帰来し、矢張り男は死するものである。
 階下に貫く断末魔と共に、階段をこつこつと登っていく音が響いた。ビーラは己の手をちらりと見遣り、二度、三度と握っては開く。階段を登っていた音が、段々と明瞭になってくる。ビーラが徐に其処へ目を向けると同時に、フード姿の大男が現れた。男は階段を登ったあたりで止まる。
 
「・・・・・・漸く来タナ、ユミル」
「・・・随分と手の込んだ用意だな。お陰で憲兵に追いつかれかけたぞ」
「追われてイル訳でも無イだろうニ。余程隠したい過去ガあると見受ケル」
「それはお互い様だぞ、ビーラ」

 男は被さっていたフードを取っ払う。狼のような強い眼光を垂れた黄金色の瞳に宿した男、ユミルは不動に直立し、床に座ったままのビーラを見据えた。 

「改めて言おうか、十年ぶりの再会だ。お前と最後に別れてから俺は獣のように山林を駆け巡り、日々の艱難を乗り越える、険しく、辛い生活を送っていた。一日
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