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王道を走れば:幻想にて
第三章、その5の1:昔語り ※エロ注意
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辺に滑らせる。そして窓際に立ちながら、視界の隅で一人の男が己が居る建物へと入っていくのが見えた。血塗れた剣を保持したままの洗脳を受けた憲兵の男、即ち己の忠実無垢な傀儡の姿であった。

「・・・果たシテ、何人無事に来れるカナ」

 ビーラは床に腰を落として鋭き視線を階段の方へと向ける。家具の類の無い、埃が煌く殺風景な部屋の中で、ビーラはひしと覚悟を決めてその方向を見詰めていた。






 こつこつとした静かな足音が王都内縁部の南西地区、即ち商人や低級貴族等の館が集う地区に鳴っている。祭りの疲れで静かに眠りたいのに街中を騒がせる憲兵達とは打って変わり、その足音は実に温厚なものであった。それもその筈、街を歩く目的が両者の間では大きな乖離があるのだから。
 片や残虐非道な殺人犯を追うために、片や迷子の連れ人を探すために。後者においては更に、散策気分の世間話も混じっているがためによりゆったりとした気分で歩いているようだ。まるで銭湯帰りのような気楽さで、慧卓は同行するミルカに話し掛ける。

「にしてもさ、思うんだよ、俺」
「藪から棒にどうなさいました?」
「こんな大規模の祭事でさ、宮廷側はなんか得する事でもあるのかなって」
「・・・貴方の事だ、分かってて聞いてますよね?」
「え、俺そんな頭回るような人間に見える?」
「にやけながら言わないで下さい、憎らしい」

 暗闇の中のにやけ面にミルカは情の篭った罵詈を返した。慧卓は笑みを静めて続ける。

「商人達が金目を嗅ぎ付けてくれるから、金銭が沢山出回って経済が活性化。祭事に際して売る側として参加したいと申し出たなら、許可出す代わりに税金徴収すればお小遣いも稼げると」
「商人達の人物像も把握できるため行動の抑制も可能、危険人物は裏で始末出来る。功績を稼ぐにはまたとない機会だから、憲兵達も喜んで手を貸します。治安の安定が担保されるも同義」
「王都に秩序を形成すれば、それは政治家達の点数に与すると・・・まだまだ利点は沢山ありそうだが、思いつくのはこんぐらいだな。それでもかなり効果的なイベントだ。もしかしてあの国王、結構な切れ者か?」
「如何でしょうか・・・会った事が無いので分かりかねます。・・・私としては、執政長官殿の献策に思えてならないのですが」
「・・・まっ、俺もなんとなくそう思うんだけどね。なんとなくだけど」

 慧卓はそっと後ろを振り返る。浮かない表情を浮かべたままに、パウリナは暗い影を身体に帯びた建物の波を見遣っていた。何処となく居心地の悪い空気を感じて慧卓は口を開きかけ、瞬間、男の声が夜を駆け抜けた。 

『ユミルっ!!!!!』

 声は空を通り、石壁の街並みに反響していく。その声に端を発してか、彼方此方で警邏をしていたのであろう憲兵達が駆け足を向か
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