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トワノクウ
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第十五夜 雉は鳴かずとも撃たれる(三)
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俺が索敵できる範囲にはいません」
「――口惜しい」

 もしかするとこの先何度もこんな目に遭わされるのかもしれない。銀朱が仇敵である梵天と決着をつけられるまで、篠ノ女空は生き餌にされるのかもしれない。エサはエサでも、解体される餌として。

 だから、直後に響いた声はくうにとって救いだった。


「あのとき、俺の手を取っておけばこんな目に遭わずにすんだのにね」





 くうは首を巡らせて天を仰いだ。

 満月を背に空を飛んでいるのは空五倍子で、腕には薄く笑む梵天を抱えていた。坂守神社勢が鉄砲の銃口をいっせいに向けても歯牙にかける様子もない。

「ようやくお出ましか、天座の天狗」

 銀朱の声だ。隠せない喜悦が滲んでいる。

「お前、いつからいた!」
「ついさっき。天座の主である俺が君ごときの目をごまかす方法を知らないとでも思ったか? ――侮るな、小童」

 圧倒的な殺気が放たれ、潤はおろか、鉄砲隊の巫女たちもたじろいでいる。
 一発でも撃てば皆殺しにする、妖の頂点に立つ男の殺界はそう告げていた。

 空五倍子が地面に降り立つと、梵天は空五倍子の腕から下りてこちらに歩み寄ってきた。
 くうを救いにきてくれた、月光をまとった麗人。この血なまぐさい場にあって、燦然とするほど彼は美しかった。
 ああ、そんなに綺麗な人が、自分などのために膝をつくなんて。

「おいで、くう」

 梵天が手を差し伸べる。今度のそれは舞踏ではなく、地獄へ垂らされた蜘蛛の糸。

 くうは血の海から這い出て、梵天の手に必死に掴まった。
 梵天はくうの手を引っ張って、くうを抱き上げる。自分などの血で彼を汚すのが申し訳なかったが、やっと得られた安全にくうは梵天の肩に腕を回してしがみついた。

「っ待て!」

 踵を返そうとした梵天に、潤がピストルを向けた。

「篠ノ女を返せ、天狗」
「俺がうなずくとでも?」
「思わないさ。――銀朱様、御前を汚します」

 よしなに、と銀朱はこちらから視線を外さず許可を下した。正確には、梵天一人から。
 銀朱は梵天を強い憎悪でもって捉えていた。そういえば潤が、銀朱の不治(なおらず)の呪いは梵天がかけたものだと言った。こんなに美しい妖がそんなせせこましい真似をするとは思えなかった。

「撃てるのかい、俺を。見たとこ人型の妖を殺したことはなさそうだけど」
「っ! てめえの身体で試してやるよ!」

 叫びながらも潤はすぐに引鉄を引かない。それが梵天の言うような恐れからか、それとも自分に配慮してか、測りかねた。

「空五倍子!」

 梵天は背後に控えていた空五倍子の片腕にくうを抱かせると、自身も空五倍子のもう片方の腕に乗った。潤や銀朱たちが攻勢に転じる間も
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