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トワノクウ
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第十五夜 雉は鳴かずとも撃たれる(二)
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き込んだ。

 邪魅が鬱陶しげに頭を振る。まずい、とくうは直感した。敵のこういう何でもないしぐさは、次の瞬間に猛攻に変わるものだ。

 案の定、邪魅が大口を開けて凄まじい速さで潤を顎に捉えようとした。誰も動けない、間に合わない。くうにはスローモーションに思えた。

(誰も助けないなら、私が助けなきゃ)

 踏み出した足が地面から浮いた。最初は長いジャンプだと勘違いしたが、何のことはない、くうは巫女たちの頭上を羽ばたいて翔けていただけだった。

 くうは潤を体当たり同然に攫って空中に舞い上がった。邪魅は口から地面に激突して顎は土を抉った。余波で巫女が何人が転んだりしたようだが、くうは腕の中に抱えた潤が無事なのでどうでもよかった。下は下でどうとでもすればいい。

「篠ノ女、お前……」
「くうもびっくりしています」

 視線を左右に巡らせれば白い翼。くうは自らの翼で空を飛んでいる。あれよあれよという間に人体単独飛行という人類の夢を成し遂げてしまったわけだ。もっとも篠ノ女空が「人体」かは大いに疑問が残る部分だが。

 潤の目は、彼を後ろから抱えているくうの顔に注がれている。まじまじと見つめられてもうれしくない。だって今、潤はとても困っている。人ではない篠ノ女空にどういう言葉をかけるべきか、保身と友情の間で揺れている。

 くうはあえてフォローを入れず、慎重に潤を地面に下ろした。彼女自身は地面から三〇センチ上に浮いたままだ。

 巫女からの視線がくう一人に集中砲火を浴びせている。たった今彼女らの頭目の片割れを助けた者に向けるとは思えない、畏怖の目、嫌悪の目、侮蔑の目。

(巫女さんてほんと妖嫌いなんですね。根が深そう。火サスもびっくりです)

 今ではくうもそれらに冴えたまなざしを返すことができた。

「――助かった。ありがとう」
「どういたしまして」
「ああ。それとその、悪いんだが、そのまま邪魅の注意を引きつけることはできるか? 隊列を組み直すまででいいんだ」
「エサの次はオトリですか。忙しないことです」
「……すまない」

 潤は申し訳なさげに目を逸らした。まったくひどい青年だが、

「巻き込まないでくださいよ」

 そんな青年の頼みを聞き入れてしまうくうも、まったくひどい少女だ。

(将来的にダメんずに引っ掛かりそうですね、私)

 どうでもいいことを考えながら再び羽ばたいて浮かび上がった。
 一度飛行の感覚に慣れてしまうと、体感型アドベンチャーにおける飛行アビリティを使って空を飛んだ感覚に通じるものがあった。


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