第一部
第一章
現実から虚実へ
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せずにいた。
でもイブも、俺からは視線を逸らさない。紅潮した頬に細まった目。艶やかしく、しっとりとした唇。所々が濡れた白いワンピース。そんなイブの全て。どこもかしこも、やっぱり扇情的でしかなくて……。
「ちょっと、やりすぎちゃったかな……」
……なんて。そんな一言だって、今の俺には効果覿面だってんのに、普段のイブとはまた違った姿や言動に、俺の頬はイブのそれよりも紅潮してしまっていることだろうと思う。俺は咄嗟に顔を手で覆って、なんとかイブから顔を逸らすと、やがて俺の膝にかかっていた軽い重みがスッと引いていった。
「ん、恭夜。まさか照れてる?」
「……んなわけないだろ。」
顔は逸らしたままで、視線だけをいつの間にやら上体を起こしていたイブの方へと向ける。その視線の先でイブの顔には、抑えきれない笑みを無理やり抑えているかのような悪い笑みが浮かんでいた。
「……ふーん。」
「……」
まぁ、ばればれだ。いくら顔を逸らしていても、この赤く火照った頬はイブからでもよーく見えるだろうし……。
俺は合わせていた視線をまたも逸らして、ふっと目を瞑り、虚空を切り裂きそうなほどに大きなため息を一つついた。
「ボクの勝ち、かな?」
「……まぁ。」
目を輝かせて俺の瞳をじーっと見つめるイブに、認めたくないという心中の意をふんだんに孕んだ肯定の一言を、俺はぼそっとつぶやいた。
「やった。」
その俺の言葉を聞くや否や、イブの顔に花開く満開満面の笑みを浮かべて、両手を胸元で握りしめて、本当に嬉しそうに笑うイブ。そんなイブの様子を見ていて自ずと心に芽生えるのは、今まで何度想ってきたかもわからない、可愛らしいと思う感情と、日に日に増していく想い。これが儚くも確かな恋情だという自覚は、いつの間にかあった。
イブ……。可愛くて、優しくて。時には、今日みたいな一面を見せてくれて、俺に癒やしと勇気を与えてくれる……。
そんな俺の……愛しい人。
抑えきれない想いを心のなかでつぶやいては、イブの勝利に喜ぶ様子を、ぼんやりと恋情に浸りながら眺める。満面の笑みを携えては、時おり俺を見つめて楽しそうに勝ち誇ったような顔をする。
……そうか、普段は俺がからかってばかりだったからな。確かに、俺にとっても新鮮っちゃ新鮮だった気がしないでもないし、何より普段は味わえない経験だったけれどもさ。
俺はさっきまでの一連の出来事を振り返っては、今のイブの行動に照らし合わせながら想いに耽る。
……でも、ちょっと刺激的すぎた。しばらくは引きずっちまいそうなくらいには。
自分の胸元に手を当てて、心臓の確かな鼓動の早さを確かめてみれば、なるほど。俺自身、大分落ち着いたような素振りはしているけれども、身体は俺の意志に関係なく正直だ。早まる鼓動は、まだまだ治まりそうにはなかった。
「んー。恭夜、
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