第一部
第一章
現実から虚実へ
[4/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
まで俺自身の手を動かした。
「……ボクだって。」
「……え?」
聞こえるか聞こえないかの境界線。それくらいの声量の呟きが、僅かに俺の耳に触れた、その瞬間だった。背筋が伸びきり、張り詰めるような感覚に見舞われたのは。
な、なんだこれ……?
俺の左人差し指に感じる、さっきとは違った感触。硬い……そう、硬い何かが、俺の人差し指を上下から挟む感触が、俺の人差し指を襲った。でも、指の第一関節のあたりに感じるのは、さっきまで俺が触れていたイブのしっとりと柔らかくふくらんだ唇の、そのしっとりとした柔らかな感触だということは確かで……。
強張ったようにピンと張りつめる俺の身体。少しだけ、想像が補った現状が脳裏を駆け巡り、やがて急激に鼓動が高鳴りだした。
……いや。まさかね。
俺は硬直する筋肉全体に鞭打ち、咄嗟に自分の手元を……そして、イブの唇を見た。
「……んむ。」
「い、イブ!?」
想像が描き出していた脳内の映像は、俺の瞳に映り込むイブの姿で、完璧に補完された。されてしまった。
さっきまで俺の指が触れていたイブの唇。その柔らかくピンク色の朱肉に、今度は俺の指が咥えられていた。さらに朱肉の奥にひっそりと伸びているであろう白い歯が、今度は俺の指を、甘噛みしていて、それが俺の指の腹を離さないでいたのだった。
あまりに強烈な姿が俺の視線を捉えて離さない、イブの行為行動。俺の第一関節から下が、すっかりイブの口に咥えられているこの光景に、どうして鼓動が高鳴らずにいられるだろうか……。
な、なんで……イブが俺の指を?
考えが纏まらない。整理する余裕も時間もない。
俺の……俺の指が、イブに……?
出てくる言葉は、さっきからほとんど同じ言葉だけ。もう、それしか頭に浮かんでこなかった。
あまりにも予想外な反撃に、俺の心が刻むビートは収まりつかず、額に噴き出す冷えた汗と身体中を包む鳥肌。きっと俺の頬はイブの唇よりも朱に染まりきっていることだろうと思う。
普段のイブからは考えられない……物凄い威力を孕んだ強反撃に、心臓まで口から出てきてしまうんじゃないかってくらい、脈打つ鼓動は強くなっていく。身体中を巡る血液が、身体の下部中央に集まり始める感覚は、もう俺にはどうすることもできない。ただ、イブのあまりにも普段とかけ離れた姿に、いけないと思いながらも視線を逸らすことができずに、この目はガッチリと釘づけになってしまっていた。
「くっ……!」
ゆ、指に唾液が伝って……。
優しい甘噛み。イブの口腔内の暖かさと、イブの唇の柔らか朱肉の感触。歯から、俺の指へと伝う唾液の感触と温度を、指先から鋭敏に感じる。鋭利な歯と俺の指のサンドイッチは、無機質だけれども、しっとりとした鈍い圧迫感を孕んだ感覚を、指先から脳へと鮮烈に甘美に、蕩けるように伝えた。
時おり、強弱をつけて
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ