第一部
第一章
現実から虚実へ
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は散歩がてらに少し遠くまで出かけてみるのも悪くないかもしれないな。
イブの顔を覗く。もういつの間にやら完璧に寝落ちたらしいイブは、俺の腕に寄りかかったまま小さな寝息を立てて、肩を縦に揺らしていた。
……疲れたんだろうか?あれだけ散々俺をからかっておいて、自分だけ疲れたとか言わないで欲しいけれど。
「……」
イブのゆったりとした呼吸に合わせて、静かに上下する肩。身体は完全に俺の方へと傾いて、軽いけれども確かな重みと暖かさを、服の上から感じる。仄かに漂う、ラベンダーの爽やかでいて仄かに甘い香りも、イブの髪から香っては、俺の鼻腔をなでた。
……今日は起こすの、止めておこうか。俺が起きる時間まで、きっともう少しだろうし。
俺は一つ、目の前の平原を眺める。広がる広大な平原。若緑と紺碧、純白のコントラストが映える世界。唯一の建造物は、遠方にぽつりと一つ、しかし雄大に佇む巨大な廃ビルだけが、その異様な姿を晒す。いや、それも含めていい景色じゃないかと、これも何度思ったかもわからない感想が、ふと出てくる。こんな景色を見ていれば、段々と散歩欲が高まってくるってことくらい、なんとも当たり前な話だった。
散歩……いい案じゃないか。でも、散歩の誘いはまた明日。あっちの世界での明日という日が終わってからでも十分間に合うさ。
俺は視線もイブへと戻して、静かに寝息を立てるイブの目元にかかっている前髪を、睫と目蓋に触れないように横に掻き分けた。そのまま左手でイブの右手をそっと握って、俺自身はイブの顔をじっと覗きこんで……。この世界での今日という日が終わるまでの間ずっと、イブをこの目に、脳に焼き付け続けた……。
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