第一部
第一章
現実から虚実へ
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少し怪訝そうにイブは眉をひそめる。でも、起きるそぶりはない。しっとりと濡れたイブの唇に、ぴとっとくっつく俺の指。
やっぱり、柔らかいな……。
触れてみて感じる、イブの唇の柔らかさ。自分のそれとは、比較にすらならない。こんなにも違うものなのかと疑うほどに、それは質が違っているかのようで……。
しばらくの間、こうして触れていて。何となく……何となくだけれども。少しだけ、いたずらしたい衝動に駆られて……俺はちょっとだけ指を上下左右に揺り動かした。
「……」
くにくにと俺の指が押すように形を変えるイブの唇。ちらっとイブの目を見るけれども、怪訝そうにひそめていた眉はいつものように、スッとした安らかな表情に戻っていた。静かな寝息は、俺まで安らかな気分にさせるほど静かでゆったりとしていて……まだイブ自身は到底起きそうにもなかった。
今度はもう少し強めに……。
手に籠る力が、また少し強くなる。そしてその分だけ、ぷにっとした唇はさらに形を変えて奥まで沈み込む。左右に揺らすと、俺の指の位置に合わせて沈み込む場所によって深さを変え、寄る位置も、その時折で変えた。
楽しい……。
意図せずに、口元にニヤけた笑みが浮かんでしまうのを隠せないくらいには、正直なところ楽しかった。
俺はいったん、イブの唇の上で手を休める。
今度はどうしてやろうか。唇を左右に引っ張ってみようか?それとも、ちょっとつまんでみようか?
そんなことを考えていた。
「……ひょーや?」
「お…っと。おはよう、イブ。」
が、突然の不意打ち。イブの寝起きの弱々しくも高めの声が俺の鼓膜を震わせた。
ちょっと熱中し過ぎたか……?
イブの寝起きのまだボーっとした雰囲気を感じさせる、力の抜けたイブの声が俺の名前を紡ぐ。どことなく安心感を感じさせる、イブのいいところが相まった可愛らしい声。目蓋は半開きのまま、虚ろな目を俺に向けて。ときおり気になるのか、イブの唇に触れる俺の手を見ようとしては、瞳を揺り動かした。
……かわいい。
俺は空いた左手で、イブの少しだけ乱れて顔にかかった前髪を左右に掻き分け、揃えた。
「……あにひてうの?」
「髪揃えてるの。」
細い数本の、まだ揃えきれていない髪を正す。
「……ひがう、こっち。」
「ん?」
どうも違うというイブの目を見据えると、イブの視線は下の方を示す。そっちに目線をずらせば、イブの左手の人差し指が指し示す、イブ自身の口元。というよりも、イブの唇に触れる俺の指。
まあ、そりゃそうだよな。
俺は左手で自分の下唇に手を当てて、少しだけ考えた。その結果、出てくる答えは一つだけ。
「……いや、なんとなくかな。」
「なんとなくって……」
俺は、イブにいたずらする手は止めずに答えた。イブも呆れたように、そして恥ずかしそうにして。目を細めて、ジト
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