SS:歩き出した思い出
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今日も物好きがステージと名付けられた広場に集まってきる。
毎日似たような演奏をしているにも拘らず、聞きに来る物好きの数がなかなか減らない。
寧ろALOに来て以来、皆の口コミで広がる自分という存在が肥大化している気さえする。
こういう風潮は少し怖い。
俺が歌うからその歌がいいと考える人が出てきそうだ。
歌と歌い手は切り離せない関係にあるが、二つはある程度釣り合った関係になければいけないと俺は考えている。その為に素人の歌い手は必死で下積みして、歌に釣り合うだけの実力をつけようとする。
その意志があるか無いかが、ただ歌えるだけの一般人とミュージシャンと呼ばれる人たちの境なのだろう。
俺はまだまだミュージシャンの域になど達していないし、歌も先人の曲を借りてるだけだ。
なのに俺が歌っているから知っている、と言われるのは・・・嫌とまでは言わないが、違和感は拭えない。
だからこそ、その中に俺の歌っているその曲がいつ、どんな人たちが歌っていたものなのかを分かって貰えると、とても嬉しい。
他人と自分と、曲を通して繋がりが生まれる気がするのだ。
俺はここが好き、私はこう感じた、みたいに意見が分かれてもいい。歌というのはそういうものだ。
――と、ガラにもなく小難しい事を考えてしまったが、俺の歌によって過去の名曲が他者に掘り出されるのは何となく自分の事のような嬉しさを抱く。ネットで昔の曲のDL販売を覗いた時に自分の歌った曲が伸びていると、この中の数個でも自分が貢献しているかもしれないと誇らしく思う自分がいる。
(つまるところ、俺はなんだかんだでここにいるのが嫌じゃないんだな)
お決まりの歌で今日の演奏を締めながら、俺はそう思った。
俺の演奏を止める奴は結局俺しかいない。選択権は手の内だ。
その事を実感したのはいつだったか――確か、階層攻略がまだ一桁代だったな。
= =
「・・・・・・」
その町は今までの階層に比べて明るく、大きな水路を流れる水が綺麗な町だった。
たしかこの階層には大きな湖があって、そこから下るように沢山の川が流れていると聞いた。
町はどれも川に沿うように作られており、今まで相手にする機会が少なかった水棲のモンスターがプレイヤーたちを手こずらせていた。
そんな中、俺はその町の川沿いにある堤防でぼーっと川を眺めていた。
ギターもぶら下げていない。釣り具を持ってる訳でもない。
ただ、作り物の日に照らされて不規則にゆらめく水面ばかりを眺めていた。
理由は、変な話だが水を眺めているのが好きだからだ。
特に雨は見ていて飽きない。
水路に流れ落ちる水、水たまりを揺らす水滴、見慣れた風景を濡らす雨水。
このアインクラッドは基本的に乾燥気候なのかあまり雨が降らな
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