SS:はじまりの思い出
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愚図の自分が生き残ってしまったのだろう――という思い。
他人に当たり散らし、リーダーがいなくなった途端弱気になる。
大した腕もないくせに攻略組だと威張っていた自分と違って、リーダーは優しくて誠実な人だった。
そのことを思い出して、自分の存在が酷く矮小に思えて、自分が代わりに死んでしまえばよかったのにという自責を心に溜めていたらしい。でも――
「でも俺は生きてるじゃねえかよ・・・役立たずでも、俺は生きてる・・・・・・不格好でも生きてる。生きてていいんだ。俺はこれからもあの人の遺志を継いで戦ってもいいんだって・・・・・・赦された気分になったんだ」
その男は、何度も何度もありがとうと呟いて、仲間に肩を抱えられて泣きながら帰っていった。
その光景を呆然と眺めていた関西弁の男は、やや不満そうな顔で舌打ちしながらもそれ以上俺に絡むことはなかった。
「・・・ワイはギターも握れんし歌もよう知らん」
「俺だって上手っていうほどじゃない。リアルで人に聞かせられるもんじゃない」
「黙って聞けや!・・・・・・さっきあんさんが歌っとるのが恥や言うたけど、間違うとった。ワイはあいつが自分の事追い詰めとるんに気付かへんかったのに、あんさんはギター鳴らして歌っただけであいつを助けたんや。悔しいけど・・・ワイには真似できへん。言いたいことはそれだけや」
それだけ言って、男は他の連中と立ち去った。
まだ俺に非難の目を向けている奴もいたが、最初に突っかかった男が身を引いたことでその感情の行き場を失ったようだった。
俺がやったのは昔の名曲を真似て歌っただけだ。
こんなこと歌さえ知ってれば誰にだってできることだ。
パソコンや音楽プレイヤーだったらもっときれいに歌えるだろう。しかし、そんなちっぽけな男のつまらない演奏に涙を流すほどの価値を見出す人間がいるなど今まで考えもしなかった。
感謝する人間は今までもいた。涙を流す人間も少数だが存在した。
それはこの現実離れした空間に取り残された人間が皆不安を覚え、励ましの言葉を求め、俺の歌った歌詞から勝手に欲しい感情を拾っていっただけだ。
そんな中でも、あれほど激しく感謝された客は初めてだった。
「変な話だな。俺もあいつと同じロクデナシの筈なのに」
なのに――俺はなんとなく、明日からも歌おうと思った。
このどうしようもない世界でどうしようもなくへこんでいる誰かを励ますことが出来る自分に、ほんの小さな価値を見出したのも、多分その日からだったと思う。
――さあ、今日はここまでだ。一気に全部聞いちゃうと楽しみが減るだろう?
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