SS:はじまりの思い出
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きた。
今まで通りすがりに悪口をぶつけられることは良くあったが、これほど直接的に迫って来られたのは初めての経験である。
路上ライブ中に突如警察が近寄って来た時みたいな緊張感が背中に走る。
「ええか、今さっきまでワイらは命懸けで攻略しとったんやぞ!?命懸けでや!!それを一丁前にギターなんぞかき鳴らして・・・恥ずかしゅうないんかい!ギター握っとる暇あったら剣振るってモンスター倒すんが戦えるプレイヤーのスジやろが!!」
「はぁ・・・よく分からんことを言うな」
「なんやその態度!ジブン、ワイの事馬鹿にしとんのかいな!」
関西弁で一方的に捲し立てられた挙句怒られる。
男は相当に激昂しており、現実世界なら間違いなくこちらに唾が飛ぶ勢いだ。
他の集団もどこかこちらを責めるような目で見ていた。
責められたところで、俺がこの弦楽器を手放したら後は家で籠る位しか出来なくなるのだが。
何をそれほど怒り狂っているのかは分からないが、これは流石に酷いんじゃないだろうか。
今の俺には友達もいないし学生の立場もない、これしか残されていないのだ。
「戦えと言われても、武器買う金もなくなった俺に出来る戦いと言えばこいつだけだ」
こんこん、と楽器を叩いて弦を鳴らす。
本当の本当に、俺が出来る事と言ったらこれくらいのものである。
これを人に聞かせてながら自分を励まして、ついでに自分の不安を散らすだけだ。
それは単なる自己満足でしかない。
だがそれでも――俺は男の言葉を手で遮って、歌うことにした。
今日はいつものアレと違うものを。
役に立たない奴だって馬鹿にされて、世の中にもうまく合わせられない――
そんなどうしようもない奴でも生きていけるようにこの星は回ってる――
この世界にとって俺達なんていてもいなくても同じなんだ――
だからって、そんな風に萎れていられるかってんだ――
痛かろうが辛かろうが、不細工なまま生き延びろ――
劣等生だろうがはみ出し者だろうが、それがお前だろう――
最初はあてつけのつもりで歌ってやったものだった。
俺には何もやましいことなんてありはしない。だからお前らの意見など知ったことか、とぶつけるつもりで。
この世界に来て初めて、人に対して攻撃的な姿勢を取った。
だが、それは俺の全く意図しない結果を齎した。
歌を聞いていたプレイヤー集団の一人が、泣き崩れたのだ。
彼等には、尊敬するリーダーがいたらしい。
しかしその男は今日のボス戦で死んでしまった。
理由はβテスターが情報を隠していたからだとかなんとか喚いていたが、時間が経つにつれ泣き崩れた彼の心にはそのテスターへの恨みを上回る感情が渦巻きはじめていたそうだ。
すなわち、何であんな立派な人が死んだのに、
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