第3章 揺れる想い
3-2 理解者
理解者
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があんねけど」
「何だよ」
「マユミはん、えらく落ち込んでるで」
「落ち込んでる?」
「そや」
「あいつは落ち込んでるんじゃなくて、怒ってるんだろ。俺に」
「ちゃうちゃう。おまえもいいかげん意固地になんの止めた方がええで」
「意固地になんかなってねえし」
「おまえ、マユミはんの気持ち、考えてないやろ?」
「何言ってるんだ。俺はあいつの事をいつも気にしてやってる。妹だからな」
「わかってへんな。おまえ、マユミはんがいつも優しく声を掛けてくれる事を『当然や』思てるんとちゃうか?」
「え……」
「今日やのうても明日でええやろ、一緒に暮らしてる仲やし、てな感じで思てたんちゃうか?」
ケンジは動揺したように目を泳がせた。「な、何のこと言ってるんだ? おまえ」
「普通の恋人同士やったら、そない簡単には会えへんのやで? 二人の時間は大切にせな」
「な、何だよ、恋人って」
「何とぼけとるんや。見え見えやがな、おまえら兄妹」
ケンジは頬を赤く染めて困ったような目をした。
ケネスは静かに続けた。
「兄の事を誰よりも思てるマユミはんの言葉を、おまえはちゃんと聞いてやらんかった。おおかたそんなとこやろ。そやからケンカみたいになっとるんとちゃうか?」
「……」ケンジはうつむいてわずかに唇を噛んだ。
「ま、マユミはんがどれだけ兄を想てるか、っちゅうことをおまえ自身、過小評価しとるっちゅうことやな」
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少しの沈黙があった。
ケネスは優しく言った。「どうしたらええかわかれへん、ちゅうて、泣いてたで、妹はん」
「えっ?……」ケンジは思わず顔を上げた。
「自分もわがまま言って、ケン兄の気持ちを考えなかった、ちゅうてな」
「そうか……」ケンジはまた目を伏せた。
「おまえとマユミはんが、お互い気まずい思いしたまま背中を向け合って、ケンジが部活にも集中できへんようになって、結果わいのライバルでなくなる事が、わいにとっては一番悔しい」ケネスは笑顔を作って続けた。「また日本に来る時、ケンジが変わらずわいのライバルでいてくれる事が、わいの最大の望みやからな」
ケンジは恐る恐る目を上げた。「どうしたら……いいかな」
ケネスは肩をすくめた。「簡単なこっちゃ。とにかくマユミはんといっぱい話すんやな。都合良く一つ屋根の下に住んどるわけやし」
ケンジは小さくため息をついて、またうつむいた。
「わかり合うっちゅうのんは、お互いへの思いやりがあってこそやで」
「ケニー……」
「わいがここにおる間に、仲直りせなあかんぞ」
ケネスはにっこり笑ってケンジの肩を叩いた。
「わい、大阪の血が混じってるせいか、めっちゃお節介焼きなんや。悪う思わんといてな」
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