第10話 10年来の天才
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いだといった奴を高く評価する俺の態度に、ワイドボーンは首をかしげている。
「だが視野が非常に狭い。そして身の丈を越える、過剰なほどの自信を抱いている。それでいながら、心の奥底の器は小さい。そういう人間は部下に服従のみ求め、意見をいたく嫌う。自分の考えと異なる者を認めたがらない」
「……」
「だから言うまでもないことだが“気をつけろ”。俺が奴に殴られなかったのは、士官学校規則があり、なおかつ俺の両父親が将官だからだ……わかったな?」
「……わかりました。気をつけます」
話しているうちに、過去の自分の事を言われていると気がついたワイドボーンは、真剣な眼差しで俺に頷いた。ヤンとは違って賢い奴だから、“ウィレム坊や”と衝突することはないだろう。俺が手振りで“帰れ”というと、ワイドボーンは敬礼して俺の視界から下がっていく。それを眺めつつ、俺は大きく溜息をついた。
正直いうと、俺もあらゆる方面からパーティーのお誘いがある。
なにしろ亡父が准将、養父も現役准将で期待の若手。俺自身、無謀な努力でなんとか学年で一桁の席次。だからグレゴリー叔父に近づきたい奴、“ボロディン家”に入り込みたい奴、俺を取り込んで勢力強化したい奴……見せる笑顔とは正反対の黒い一物をみな腹に抱えている。
顔だけ笑って、その供応に預っていればいいのだろうが、俺自身はともかく、グレゴリー叔父やボロディン家に迷惑がかかるような事態は絶対に避けなくてはいけない。だから小心者の俺としては校内で開催されるパーティー、それも研究会の打ち上げみたいなものにしか今まで参加していない。
だがこれから軍人としてのキャリアを進めるに従い、俺も給与のうちとしてそういうパーティーに参加せざるを得なくなる。相手もOBや地元有力者だけでなく、場合には国家の指導層になる場合もあるだろう。欲望と権威の渦巻く中、言葉の白刃の上で俺は果たして上手にダンスを踊れるかどうか……ワイドボーンに説教出来るほどの自信は正直なく、将来に憂鬱さを感じるのだった。
なお、それから数日後。ワイドボーンは俺のところにやってきた。
「あのレストランの生ハムは最高ですね。素材は一流、腕は二流というところですか」
「……ホーランドと話してこなかったのか?」
「話しましたよ。数と火力と機動力こそ戦争を勝利に導く原点だと彼は言ってました。私が「そうですか、なるほど」と答えたら、結構怖い笑顔を浮かべて太い手で私の肩を陽気に何度も叩いてくれました。お陰様で今朝から筋肉痛です」
肩を回しつつ応えるワイドボーンに、俺は溜息をつかざるを得なかった。
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