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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第10話 10年来の天才 
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が、むしろヤンにコテンパにのされた原因が俺であり、ヤンを上回るためにはヤンの師匠(笑)と思われている俺に話を聞くべきと言う境地にようやく達したからなのだろう。原作通り「奴は逃げ回っていた」といきり立って叫ぶわけにもいかず、相当鬱屈していたに違いない。元々それなりに整っていた顔つきも、若干頬がこけて色あせている。

 そんな状況でウィッティは沈黙を守りつつ、面白そうに俺とワイドボーンを見比べている。俺の高級副官殿はどうして肝心なときになると沈黙するのか……俺は小さく溜息をついた後、ワイドボーンを睨み付けて言った。
「俺は教師じゃない。担当教官に頼むべきじゃないのか?」
「聞きました。ですが『学生を個別指導して贔屓するわけにはいかない』と断られました」
「正論だ。俺からも言うことはない」
「ですがボロディン候補生殿はヤン候補生に……」
「なぁウィッティ、俺はヤンの奴に「戦略戦術シミュレーション」の指導をしたことあったか?」
「俺の覚えている限りでは『ない』」
 ウィッティの返事に、「そんな……」と言わんばかりの表情を、ワイドボーンは浮かべている。当然だ、あの不敗の魔術師に俺が用兵学を教えるなんて、勘違いも程々にしろと思う。いろいろな意味で。

「ワイドボーン。つまりは“そういうこと”だ」
 俺の宣告に、ワイドボーンは立ったまま震えていた。はっきりとお前はヤン一人に負けたのだと言われて、残り少ないプライドを削り取られているのだろう。他の教科に関してはヤンを遙かに上回っているのだし、それほどヤンを強く意識することもないと思う。だが自分に対する周囲の評価があの一敗で大きく変化したことに耐えられないのだ。そう考えると小心な日本人だった俺としては、ワイドボーンをいささか哀れに感じてしまう。

「……ワイドボーン候補生、君は俺より遙かに優秀だと思う」
 そのまま食器と同じように身体硬直の上に、床へぶっ倒れることは勘弁だったので、椅子に座らせてしばらく落ち着かせてから俺は言った。
「俺はかろうじて成績上位者にいる平凡な一学生に過ぎない。だから不得意科目のない君が羨ましく思える」
「ですが」
「ヤンはある意味で“天才”だ。仮に俺とヤンが「戦略戦術シミュレーション」の正面決戦シナリオでぶつかったとすれば、君と同じようにほぼ一方的に敗れるだろう。というか勝利する自信がない」
「……」
「変なプライドを持たず、少しぼんやりしながら結果を見てみれば、なにか違ったものが見えてくるんじゃないか?」

 そう言い切ると、ワイドボーンは俺の顔を見ながら口で「ぼんやり……ぼんやり……」と独り言を言っている。見るからに不気味だったが、自分にそうやって言い聞かせているんだろう。あんまり突っ込んでやるのもかわいそうなので、俺はウィッティに視線を送ってたちあが
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