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今宵、星を掴む
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テントへと向かった。整然と並べられた椅子の背には、座席を指定する紙が貼られており、そこには皇国空軍幕僚長大西滝次郎大将、同作戦参謀源田実少将、皇国海軍統合艦隊司令長官山口多聞大将、同第2機動艦隊司令黛薫少将ほか多数の軍官民の代表者が控えられていた。
 2人の立場は、九州飛行機と提携する一企業の社長、防衛技術研究所の所員でしかなく、無関係ではないものの優先される人物でもない。結局、2人は手近なコンクリートの塀に座り、滑走路を眺めるのだった。

 聞こえてきたのは、プロペラエンジンの独特な低音ドラムのごとき回転音ではなく、元シャープで回転数が多い甲高い音だった。格納庫の方を見ると、ちょうど車両にひかれて試験飛行を行う機体が引き出されてくるところだ。
 最初に出てきたのは、Me262シュヴァルベに酷似した双発、後退翼をもつ機体だ。翼下に2発のネ130エンジンを搭載している。高嶋少佐は5年以上前に、ドイツで実見した時の様子を思い出していた。富士重工業、旧中島飛行機製キ201、通称<火龍>。陸軍側の要請で試作された機体だ。
 見た目の通り、高嶋少佐が持ち帰ってきたMe262の設計図をもとに一回り大型化した設計で、すでに実績のある設計を特徴とする。機首に4門装備する20ミリ機関砲の他、翼下に噴進弾を搭載しての対地攻撃も任務に含まれており、保守的な性格が強くでている。
 続いて出てきた機体は、ある種の驚嘆の声と共に迎え入れられた。主翼を機体後部におき、機首には尾翼を持ってきたような翼配置を持つその機体は、九州飛行機製の十八試局地戦闘機震電と呼ばれていた設計案をもとにした機体である。開発名称は<蒼雷>と呼ばれている。
 戦後すぐに、業務提携の話し合いの席で意気投合した九州飛行機社長から「もういらないから」と設計図を見せてもらったことがある裕也は、震電と呼ばれていたころとの違いを、裕也はいくつか見出すことができた。
 特徴的なエンテ翼はエンジンの変更で、重くなった機体を支えるために翼面積が増している。その翼端はコクピットよりも前方にあり、かなり広く取られている。また、エアインテークもコクピットの左右から機体下部に移動していることが見てとれた。エンジンの変更に伴って、かなり長く取られていた降着脚の設計も変更されている。戦中、主に陸軍機と関わってきた裕也にとっては、火龍の保守的な設計の方が分かりやすく、蒼雷の前衛的とも思える設計は挑戦的に思えた。
 両機は共に石川播磨重工製のネ130を双発で搭載している。ネ130はドイツの軸流式ジェットエンジンの設計を基に開発され、1947年の実験で推力1080キログラムを記録している。しかし、冶金技術の低さから耐久時間がアメリカ製のエンジンに比べて非常に短く、この3年の間に少しずつ改良を加えられてはいたものの、40時間程度の稼
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