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うとしていた。彼のライバルである鳩山一郎と彼に同調する派閥が、この機に吉田首相のアメリカ追従外交からの脱却や、改憲などを目的に、党からの離脱すらも視野に入れた動きを見せていた。
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同日1100 各務原基地第2滑走路
冬の空は高く青く広がっていた。南側に木曽川を臨み、その向こうを中部高地の山々が控えている。山から吹き降ろしてくる風が管制塔の上に掲げられた旗をなびかせる。
「あれは無粋なものですね」
滑走路に立って格納庫から引き出されてくる航空機を眺めていた裕也の後ろから声がかけられた。コートが風になびく。振り向くと濃緑で染められた陸軍制服に身を包んだ男が歩み寄ってくるところだった。
男は裕也の前に立つと、さっと右手をこめかみに当て敬礼した。それから、管制塔に隣接して建てられた巨大な八木アンテナを眺める。
「レーダー、電波探知機の登場で、航空戦すらも個人の武勇が介在できる場所ではなくなりました。
おかしなものです。個人の力、権利を保障し、その良心に担保される民主主義の軍隊が、個の力を頼らない体制を作っていくとは」皮肉めいた調子だった。あるいは、どこか揶揄するような。
「船が海を結んだように、航空機は空を結び、個の世界を広げた。しかし、広くなった世界は1人ではすべてを見ることは出来ない。だからこそ、それを管理する技術が発達したのでは」
「なるほど。ではその先は、まだ個の力の発する余地があるというわけですね。あるいは、目指す人間が少ないからこそ、個の力を必要とする」
「今の時代は、もう、なにごとも一人ではできませなんだ。
それは、ドイツのあの方を見てきたあなたの方がよくご存じでしょう、高嶋少佐」
「私のことをご存じで?」裕也の隣に立った陸軍軍人――高嶋少佐は、意外そうな表情を見せた。
「シンガポールからの脱出劇の噂はかねがね。もっとも、私にとっては、噴進弾開発の責任者としての名前の方が重要ですが」
少佐は右手で制帽をいじると、所在なさげに右手をさまよわせて、それからその手を裕也の方に差し出した。
「初めまして。皇国陸軍少佐、高嶋和樹と申します。今は防衛技術研究所第2課所属ですが」
「それで、私にどのようなご用件を?」裕也は握手する。高嶋少佐の噂はスコットからV2の事を聞いた後、満州時代の伝手を通じて知っていた。
「いやなに、噴進弾開発――今はロケットと呼称している開発部門の責任者として、お願いにあがったまでです」
「ああ、商談ですか。それなら、また後ほど。これから、飛行機が飛ぶところですし」
「はい。私としても、自分の持って帰ったものの成果を、確認したいですから」
それから2人は格納庫に隣接したコンクリート造りの管制塔前に据えられた簡易
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