第9話 斜め上
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に恒久平和などありはしない」
「……ですね」
「つまるところ、俺は僅かな期間の平和しか望んでいない。だがな、ヤン。お前さんが戦史編纂室の研究員で一生を終えるくらいの期間くらいはあると思うんだがな」
俺の言葉は終わったが、聞き終えたヤンは、下を向いて大きく溜息をついた。その姿からは先ほどまであった殺気に近い気配は全く感じられない。
「校長閣下が先輩に『軍人に向いていない』と言われた理由が分かるような気がします」
「なにしろ口先から産まれたらしいからな」
「義妹さんは美人なんですか? それこそご自分の命を賭けるまでに」
「美人に決まっているだろうが!!」
机を叩いて立ち上がる俺の正統な激怒に、それまでずっと黙っていたウィッティも、そして言ったヤンも、笑いを隠しきれていなかった。ウィッティなんかは腹を抱えて笑っている。お陰で周囲の視線がかなり痛い。俺が不承不承で腰を下ろすと、ヤンは指で笑い涙を拭きながら応える。
「先輩と話していると、自分が何となく虚しく見えてくるから、ちょっとばかり嫌なんですよね」
「そうか?」
「とにかく面白いお話は伺いました。私には私なりの主義主張もあるので譲れない部分もあります。が、これからはなるべく手を抜かずに頑張ってみますよ。『永遠ならざる平和』の為に」
ヤンはそう言うと席を立ち、俺に向かって敬礼する。久しぶりに見る整った敬礼だ。立ち去ろうと回れ右するヤンの背中に、俺は声を掛けた。
「とりあえずは明日、ワイドボーンに負けるなよ」
「負けるわけないじゃないですか」
それに対してヤンは人の悪い笑顔で応えた。
「大変不本意ですが、私はどうやら『悪魔王子』の一番弟子らしいですからね」
そしてヤンは翌日、原作通りワイドボーンに戦略戦術シミュレーションで勝利した。
ただしワイドボーンの補給線を一点集中で撃破するところまでは原作と同じだったのだが、そこから様々な戦術を駆使して挑んできたワイドボーンの主力艦隊を、犠牲らしい犠牲を出さずほぼ一方的に撃破したそうだ。教官達の衝撃は相当なモノらしく、ヤンを戦略研究科に転科させたらどうかという話もあるらしい。俺は授業の関係上リアルタイムで見ることは出来なかったが、見ていたウィッティが言うには
「『悪魔王子』の弟子なんて可愛いものじゃない。あれは『悪魔提督』だ」
……俺はなにか間違ったことをしたのだろうか。一抹の不安を抱かずにはいられなかった。
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