第9話 斜め上
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安を覚える。
それと同時になんとなくヤンの、一線を引いて常に傍観者でいようとする態度が、どうにも最近気になって仕方ない。もちろん本人が軍人になる意志を持って士官学校に入って来たわけではないことは十分に承知している。それをことさら否定しようとは思わないが、逆に言い訳にされてしまっているようにも思えるのだ。
肉体的な要素が必要な分野を除いて、ヤンに才能がないわけがない。将来の不敗ぶりもさることながら、あれだけ難しい入学試験に、いくら上位からほど遠いとはいえ、宇宙船暮らしで基本自学自習だけで合格するのだ。塾にも行かず効率よく勉強できる能力に継続できる努力は、ほかの欲求に目を逸らしがちな少年時代にあって、大した物だと言える。なぜその努力が機械工学に向かないか……興味のないことには可能な限り手を抜いているのだろう。落第さえしなければいいと考えているのは間違いない。
「機関工学は正しい計算式から正しい答えが出る学問だ。才能あるなしは正直関係ないだろう」
俺の少し強い声での呟きに、ウィッティもヤンも俺に視線を動かす。
「ヤン。君はただの好き嫌いを、才能という言葉で逃げてないか?」
図らずもテーブル上は沈黙に包まれる。今度は俺とウィッティの視線がヤンに向かい、ヤンの視線は手元の紙コップの底に注がれたままだ。
「好き嫌いも含めて、才能なんじゃないかと、私は思うんですが」
「才能とは生まれつき物事を巧みにこなせる能力の事だ。負の才能という言葉はない。才能が必要なのは開発部門だけであって、運用部門には必要ない。そこに必要なのは努力だ」
「……」
「得意・苦手はわかる。俺だって「帝国公用語」と「仮想人格相手の戦略戦術シミュレーション」が苦手だ。だがだからといって努力だけは惜しんだことはないぞ」
俺の言葉に、ヤンは相変わらずこちらに視線を向けることなく、残り少ない紅茶が生き延びている紙コップの底を見つめている。沈黙はおそらく数分だったろうが、俺に取ってみれば三〇分近い時間が過ぎたように思えた。
先に破ったのはヤンだった。
「伺いたいことがあります。勿論、ご不快ご不満であればお答えいただかなくても結構です」
俺に向かってそう言うヤンの視線は、原作ではクーデター鎮圧寸前の、エベンス大佐との会話時の鋭さだった。
「ボロディン先輩が努力を惜しまない人だというのは分かります。苦手科目についても人一倍苦労しているのは、ここ数ヶ月お付き合いさせていただいてよく分かっているつもりです。『興味がないからといって才能がないとは限らない』という言葉は、今でもはっきりと覚えています」
記憶力に自信がないとか、ハイネセンで道に迷うとか、原作では言っていたような気がするが、俺はヤンの真剣な態度に、正直飲まれていてそれどころではない。一度区
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