第四章
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「テクニックや声の綺麗さだけじゃない、勉強家でもあるしそれに」
「それに?」
「それにですか」
「器が違うよ、私みたいなややこしい人間とここまで付き合えるんだ」
コレッリも自分のことは聞いていてわかっていた、とかく我儘で難しい人間だと。しかしそれでもだというのだ。
「あれだけの娘ならね」
「きっとですか」
「凄い歌手になりますか」
「もうマエストロ=カラヤンからも声がかかってるんだよね」
ヘルバルト=フォン=カラヤンだ。二十世紀後半のクラシック界に君臨した帝王とさえ呼ばれた指揮者である。
「それならね」
「マエストロもその才能を引き出してくれて」
「大成しますか」
「きっとそうなるよ、これからどうなるか楽しみだよ」
コレッリ自身も手放しでこうも言ったのだった、そして。
実際にだ、この歌手はここからだった。
カラヤンの指揮する歌劇にも出て世界的な評価を得た、遂には幼馴染みのパヴァロッティと方を並べるまでの大歌手になった。
だが全く驕ることなく気さくなままだった、それで誰もが彼女を敬愛した。そしてインタヴューにおいてだった。
コレッリとのことを聞かれるとだ、笑顔でこう言うのだった。
「悪い人ではなかったわ」
「気難しくもですか」
「なかったのですか、あの人は」
「少なくとも私にとってはね」
そうした人ではなかったというのだ。
「普通に打ち解けられたから」
「ううん、それがわからないですね」
「どうにも」
インタヴューをしたり話を聞く面々はいつもだ、彼女のこの笑顔での言葉を聞いて首を傾げさせて言うのだった。
「あの人については」
「インタヴューでも気を使いましたし」
「撮影でも左側を撮れって言ってましたし」
「そうそう、いつも」
「何でも右側は歪んでるとかで」
「そう言って」
こうした注文もだ、コレッリはいつもしていたのだ。
「いつも高音出せるか不安がってて」
「今は出せても次はどうかとか」
「本当に神経質で」
「気を使ってたんですが」
「ううん、そうしたお話は私も聞いているけれど」
それでもだと言う歌手だった。
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