第一章
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喪服の黒
喪服の黒はやけに色気がある、誰が言った言葉であろうか。
このことを今浜崎侑里は実感していた、自分の母を見て。
今侑里も母の美也子も葬式に出ている。死んだのは彼女の父であり夫だ。不意の交通事故で世を去ってしまった。
侑里も泣いているが母も泣いている、その中でだった。
侑里は泣きながらも喪主として何とか場を務めている母にだ、こう囁いた。
「ねえ、私達ね」
「どうしたの?」
「これからどうなるの?」
こう母に問うたのだった、今の母に感じているものを隠して。
「一体」
「生活のことは気にしなくていいわ」
涙を流しながらもだ、美也子は娘にこう答えた。場は黒と白しかない、式場には花があり遺影には生きていた頃と変わらない顔の夫がいる。
「そのことはね」
「そうなの」
「お父さんの保険金があるから」
だからだというのだ。
「侑里ちゃんもこのままね」
「高校に通っていていいのね」
「そう、大学のことも心配しなくていいから」
進学の費用もというのだ。
「安心してね」
「そうなのね」
「ええ、お母さんの仕事もあるから」
そちらからの収入もあるというのだ、実は共働きだったのだ。
「気にしなくていいから」
「そうなの。けれど」
「けれど?」
「いや、お父さんね」
思わずだ、母に喪服姿が綺麗だと言ってしまいそうになったが止めた。美也子はまだ三十八歳だ、十七の侑里から見てもまだ充分な美貌だ。女優と言っても通用する、自分と同じ顔だがずっと綺麗に思える。
「急にだったわね」
「交通事故だからね」
「そうよね」
「生活には困らないのね」
「そうよ、けれどね」
美也子は侑里をじっと見てだ、こう言ったのだった。
「これからは二人で生きるから」
「私とお母さんだけで」
「そう、二人でね」
これからは、というのだ。
「そうなるわ」
「寂しいわね」
「お母さんはお父さんだけだったから」
夫を愛していたのだ、一途に。
だからだ、娘にも涙を流しながらも決心している顔で言うのだった。
「安心してね、そのことは」
「うん、ただ」
「ただ?」
母は娘に問い返した、今の言葉が気になって。
「どうしたの」
「いえ、何でもないわ」
今のあまりにも妖しい、普段の地味いやださいと言える服とは違い喪服姿の母の姿の美を言おうとした。しかし侑里はここでもそのことは母には言わなかった。
それで言葉を打ち消してだ、こう答えたのだった。
「気にしないで」
「そうなの」
「けれどお母さん、私も頑張るから」
娘としてだ、母にこう答えたのだった。
「二人で生きていこうね」
「そうしましょう」
母も約束したのだった、そうしてだった。
夫
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