第三章
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「やっぱりスギやな！」
「大阪球場ではスギを観んとな！」
「そやそや、スギのあの凄いピッチングが観たいんや」
「あんな凄いピッチャー他におらんさかいな」
「別所より上やで」
巨人に強奪された南海のエースだ、巨人はこの時から巨人だった。もっとも強奪したのは策士と言われた三原脩であるがこの人物は後に巨人に背いている。
「最高のピッチャーや」
「最高のピッチャーを観んとな」
「やっぱりあかんわ」
「球場に来た意味がないわ」
これがファンの言葉だった、その言葉を聞いてだった。
杉浦は鶴岡の考えがわかった、そで勝った後ベンチに戻って鶴岡のところに来て確かな顔で言ったのだった。
「監督のお考え、よくわかりました」
「そういうこっちゃ」
鶴岡は微笑んで杉浦に言葉を返した、彼は大阪のファン達の為にあえて杉浦を東京では温存したのである。
この話は今も大阪に残っている、それでだ。
古いファン達はだ、こう言うのだった。
「やっぱり鶴岡さんは違ったな」
「そやな、ほんまのプロ野球のお人やった」
「あくまでお客さんのことを考えてたわ」
「お客さんに観せる野球を意識してはった」
「そこがちゃうわ」
「プロ野球人やった」
真の意味でそうだったというのだ。
「あの人はな」
「グラウンドには銭が落ちてる」
鶴岡が遺した言葉の一つである。
「そう言うてたし」
「そしてお金を出してくれるお客さんのことをいつも頭に入れてくれた」
「試合放棄した時もまずお客さんに悪いって思ったっちゅうしな」
「やっぱちゃうかったわ」
「ほんまの大監督やった」
「そしてや」
鶴岡だけではなかったというのだ。
「スギもなあ」
「ああ、スギもその鶴岡さんに応えてたわ」
「お客さんにええピッチング見せてくれた」
「ええ野球してくれた」
「ええ選手やった」
心からこう言うのだった、杉浦のことも。
「思えば南海ホークスの最後の監督とダイエーホークスの最初の監督がスギでよかった」
「大阪を去って福岡に行く監督がな」
「スギでよかった」
「最高の引き継ぎしてくれたわ」
大阪から福岡へ、チームの歴史を継承させてくれたというのだ。
「ホークスは福岡に行ったけどホークスはホークスや」
「鶴岡さんが大阪で育ててくれたチームをスギが福岡に受け継がせてくれた」
「大阪から去ったんは残念やけど」
親会社が身売りしたから仕方ないと言えば仕方ないにしても。
「ホークスは今もホークスや」
「大阪から福岡行くのは大変やけどな」
それでもだというのだ、大阪にいる古いファン達は話す。
「ホークスは応援しよな」
「そうしよな」
こう話すのだった、笑顔で。
鶴岡も杉浦も既に泉下の人となり大阪球場ももうない、だがそこにあった
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