第一章
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食べないかどうか
ムスリム、即ちイスラム教に宗教上の戒律の理由から食事に制約があることは日本でも知られてきていた、それでだった。
大阪の新世界で串カツ屋をやっている田辺優一は今自分の店の中にいて串カツとキャベツを食べている客達に自分が焼いた串カツを出しながら尋ねた。
「イスラム教徒って豚食わないんだよな」
「ああ、そうだよ」
「あの人達豚は食わないよ」
その通りだとだ、客達はその豚肉の串カツを食べつつ田辺に話した。田辺はまだ若い、二十八歳だ。しかし身体は結構太っていて顔も丸い、ついでに言えば眼鏡も丸い。悠々自適の生活に入った父親の跡を継いで店にいるのだ。
その彼にだ、客達は話すのだ。
「不浄の肉って言ってな」
「食わないんだよ」
「あと酒も飲まないよ」
「海のものもかなり制約があるんだよ」
「じゃあうちの店には来ないな」
田辺は客達の話を聞いてこう言った、カウンターの中で串カツを焼きつつ。その隣ではバイトの子がビールを入れている。
「絶対に」
「だよな、串カツは食わないな」
「酒も飲んだら駄目だからな」
「じゃあ串カツ屋で何食うんだってなるからな」
「それはな」
「うち豚肉だよ」
串カツの肉は、というのだ。
「れっきとしてな」
「それに海老、烏賊に蛸な」
「貝柱もあるな」
そうしたシーフードの名前も挙げられる、客達の口から。
「ビールは絶対だしな」
「焼酎もいいけれどな」
とにかく酒もあった、串カツと一緒に飲むと最高だ。
「豚肉にシーフードに酒」
「絶対イスラムの人来ないよな」
「ああ、何があってもな」
「来る筈がないな」
「俺イラクとかじゃ店開けないな」
自分でも言う田辺だった。
「絶対に」
「羊の肉なら出来るんじゃないか?」
客の一人がここでこう言った。
「酒を出さないでな」
「いや、それだとな」
どうかとだ、田辺はその客に反論した。
「違うだろ、串カツとはな」
「そうだよな、違うよな」
客も言う、このことは。
「豚肉じゃないとな」
「牛肉でも焼けるけれどな」
これだとコストがかかる、難しいところだ。
「まあ豚が一番だな、串カツは」
「酒もないとな」
「ああ、酒は絶対だろ」
それこそだというのだ。
「それこそな」
「串カツならな」
「やっぱり俺の店はイスラムじゃ無理だ」
こう結論付けたのだった。
「やっていけないな」
「どうしてもか」
「ああ、何があってもな」
豚や酒はだった、それにシーフードも。
「キャベツだけで商売は出来ないだろ」
「串カツ屋のな」
「定番だけれどな」
今も客達の傍に切られたキャベツの葉がある、串カツ屋にこれは欠かせない。串カツを食べ過ぎた時に胸焼けをしない様
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