第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第二節 期待 第四話 (通算第69話)
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去年のことだった。
「先輩、そんなっ。だったら俺が……」
カミーユが場の沈黙を破った。全員が一斉に振り向く。カミーユは自分が言った言葉の意味が、思いの外深いことに今更ながら気づいた。
「カミーユ、自分の言っていることの意味が解っているの?!」
レコアが叱責するように声を挙げた。
元ジオン軍人という経歴を持つレコアからすれば《ガンダム》は憎悪の対象である。《ガンダム》に乗るということは単に高性能機に乗るということではない。戦場において味方を鼓舞し、戦況を打破する活躍を求められ、敵からは憎悪され執拗に狙われる象徴――それが《ガンダム》なのだ。それらのプレッシャーを跳ね除けられる精神力と技倆を兼ね備えていなければ、《ガンダム》のパイロットにはなれない。
だが、カミーユにも言い分はあった。高校時代のジュニモビ大会でカミーユが優勝できたのは父のコンピュータから設計図をコピーし、ジュニモビに流用していたからだ。カミーユはジュニモビで《マークII》の搭乗訓練をしていたようなものである。だからであろうか、シミュレーターよりも実機訓練の方が成績が良かった。しかも、カミーユは《リックディアス》の適性試験では散々な結果を残している。ジオン系の操縦設計が苦手だとも言えた。
「お前が《ガンダム》のパイロットだと?新兵は寝言を寝てから言えっ」
怒気を孕んだヘンケンの雷が落ちた。ヘンケンは初代《ガンダム》の活躍を目の当たりにしているだけに《ガンダム》への畏敬の念が強い。鬼神のような強さを発揮した伝説をカミーユが再現できるとは思えなかった。
メズーンは中尉であるが勲功があって昇進したのではない。士官学校を卒業した者は一年後に中尉に昇進するのが普通であった。ランバンやカミーユのように初任地が最前線ともいうべきグラナダであるのは珍しいケースで、メズーンのように後方基地で無難に勤めてから前線に回される。戦時下でもなければ中尉といえども新兵とさして変わりはしなかった。だが、カミーユとランバンは完全に新兵である。嘴の黄色い雛などというより、まだ卵だという感覚がヘンケンには強かった。
「艦長、やらせてみたらどうです?」
シャアには《ガンダム》といえども、一兵器であるという認識しかない。激しく憎悪する同胞や崇拝する連邦軍人の発想を理解できてはいても共感はできずにいる。戦果はMSの性能よりもパイロットの技倆に左右されるからだ。
ヘンケンはシャアの意図を探るように顔色を伺ったが、サングラスに遮られて、シャアの表情は見えなかった。
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