第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第二節 期待 第一話 (通算第66話)
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鳴り止んだ。《ガンダム》の後ろでゲートが完全に閉まる。青々とした“エア”のグリーンランプが神々しく点灯していた。
全身の力が抜けた。グリップから指が剥がれない。強張って、まるで瘧のように全身が震えていた。涙と汗でくしゃくしゃになった顔をプシューという音とともに開いたハッチに向けた。
「ほら、降りなさい。メズーン・メックス」
目の前には赤毛の癖毛をウルフカットにしたレコア・ロンドが、バイザーを上げてハッチから覗き込んで手を差し伸べていた。化粧っ気はないのに血のように赤い唇がメズーンを捕らえて離さない。
「あ、ありがとう。レコア・ロンド……」
どれくらい経ったのか。ようやく喉の奥から絞り出した声は、嗄れきっている。
伸ばしてくれた手を掴もうとするも、死の恐怖から解放された体は脱力感に冒され、マトモに動こうとはしなかった。柔らかく、仕方ないわねと笑って手を解してくれたレコアの手は、ノーマルスーツ越しにでも温かく感じた。
数分後、レコアに支えてもらいながら、MSから降りたメズーンは、そのままガンルームに通され――いや、連行された。そこにはブレックス、ヘンケンら《アーガマ》の幹部が今や遅しと待っていた。
「メズーン・メックス中尉か?」
「は、はいっ」
ようやく生還の実感が湧いたばかりのメズーンが身を硬くした。目の前に、エゥーゴの幹部がいるという事実が緊張させていた。
ここで信じて貰えなければ、何のために犯罪者になるのを覚悟して《ガンダム》を奪取したのか解らなくなる。レドの手引きであることは知られていないのかも知れない。迂闊には話せなかった。
「君は、ティターンズではないのだな?」
「はい。サイド7防衛大隊所属であります」
即応するメズーン。
ブレックスはレコアが書いたレポートと軍のデータベースを確認した。姓名、生年月日、家族構成に問題はない。が、スパイでないとは言えなかった。
「士官学校は何校かね?」
「出身はサイド7ですからフォン・ブラウン校にしか入学許可は下りませんでした」
九つある宇宙軍士官学校の内、オーガスタのニュータイプ研究所内のものを除けば、スペースノイドが入学を許されているのはフォン・ブラウン校だけである。
「ハイスクールは?」
「サイド7〈グリーンノア〉のノルドール高校です」
ブレックスがヘンケンに目で合図した。頷くと席を外す。サイド7のことは出身者に聞くのが早い。カミーユとランバンを連れてこいという意味だった。
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