暁 〜小説投稿サイト〜
機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア
第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第二節 期待 第一話 (通算第66話)
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 事情を察したメカマンが、オープン回線で緊急事態であることを告げた。
――《ガンダム》のパイロットがノーマルスーツを着てないんだ!
(なんだとっ――なら、さっさとハンガーに移動させろ!ティターンズの追手が来る。大尉たちを帰艦させなきゃならん!)
 甲板員と整備兵の動きがにわかに慌ただしくなった。管制官が後続の帰艦待機中のMSに指示を出し、中に待機していたデッキクルーたちも駆けつけてきた。
――急いで《ガンダム》をゲートに移動させろ!
 黄色のノーマルスーツを着た整備兵が接触回線でメズーンに指示を出した。口調から整備長だろうとアタリをつける。メズーンはデッキクルーの誘導に従って《ガンダム》をMSハンガーに移動させた。初めての艦の甲板での移動はオートに出来ない。だが、マニュアルではなおのこと勘が掴めなかった。
 慎重に動かす。だが、非情にも手許のコンソール上で空気圧の警告灯が明滅し始めていた。まだ予備の触媒が生きているのか、気圧は下がっているものの、辛うじて寒さを感じるレベルを保ってくれてはいたが、空気漏れは続いているのだ。
《ガンダム》が艦体中央部のMSハンガーに収まると、クルーが緊急閉鎖を叫んだ。カタパルトとハンガーを隔てる鉄扉が急ぎながら――だが、ゆっくりと閉まっていった。窒息死の恐怖が再びメズーンを襲う。
(早く、早く、早く……!)
 緊急閉鎖だというのになんて遅いんだっと《アーガマ》を罵った。緊急閉鎖がスローモーションにしか感じられぬほど、追い詰められていた。心臓が早鐘のように鳴る。警告灯が点灯し、アラートが鳴り響いた。
「早くしてくれっ」
 カラカラに渇いた喉から絞り出した焦燥は嗄れた老人の声に似ている。空気が薄れ、湿度が下がっただけなのだが、メズーンは自分の声に死が間近に迫っているのではないかと恐れた。
「助けてくれよっ!」
 絶叫がコクピットの全天周モニターに跳ね返り霧散した。寒い。所詮人はひとりなのだと強制的に認識させられるのが宇宙だとも言えた。そこには温もりはなく、宇宙服を着なければ人は一分とて生きていられない。
 脳裏に高校時代に観た映画のクライマックスシーンが横切る。部活の仲間と観に行った映画だ。一年後輩のランバンが出演している女優を好きだとかで行くことになったのだ。被弾したムサイから脱出したジオンの女性士官役の女優が最期に言った台詞が「空気を一滴だけ……」だった。パイロットを目指していたメズーンにとって忘れようにも忘れられない衝撃的シーン。その苦しみ方がリアルで、ランバンなどは女優の迫真の演技を絶讚していたが、メズーンにはある意味でトラウマだった。出撃に際しては、触媒のチェックを怠ったことはない――メカマンに任せきりにしないと機付長にドヤされたことがあるほどだ。
(あの女優の名前は――)
 その時、警報が
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ