第一章
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夜のどこかで
夜、私がいつも彼と逢う時。彼は今も私の前に来てくれた。
しかしだ、このこともいつも通りだった。
何処か目を背けさせてだ、私にこう言うのだった。
「今日もね」
「あまり一緒にはいられないね」
「うん、一人だけれどね」
このことが嘘だとわかる、何故なら。
左手の薬指に跡がある、いつも付けていて私と逢う時だけ外しているから跡になっている。普通はわからないけれど。
何故か私にはわかった、その跡が。自然と目に入ってそれで気付くことだった。
けれど私は気付かないふりをしてだ、彼に言うのだった。
「それじゃあね」
「うん、今日もね」
「一緒にいられる時間をね」
そのだ、その時をだった。
二人で楽しんだ、そして。
彼はその時になるとベッドから出てだ、そそくさと服を着て言うのだった。
「それではね」
「帰るのね」
「家に帰ると猫が待っているんだ」
猫はいるだろう、けれど。
いるのは猫だけじゃない、私はそのこともわかっていた。
そしてそのうえでだった、私は仮面を被って彼の背中に告げるのだった。
「ではまたね」
「また逢う時にね」
彼は私の方を見ないで部屋を出る、そして一人になった私は。
嘘をそのままに一人飲む、その酒で嘘を紛らわせる。
朝も嫌いになった、昼も。一人でいる時はこれ以上にないまでに退屈でしかも空虚だった。それで私は朝目覚めることも昼働くことも。
どちらも嫌いになった、そして夜が好きになった。
彼と逢う、それから二人で過ごすことがだった。
その時だけが好きになった、けれど彼は。
私に嘘を吐いていた、嘘を吐き続けたままだった。
今日も私と逢った、そして。
この日もだ、こう私に言った。
「今日もね」
「猫が待っているのね」
「うん、だからね」
必死に視線を私に向けての言葉だった。
「悪いけれどね」
「一晩はなのね」
「途中までだよ」
一緒にいられるのは、というのだ。
「いられるけれど」
「わかったわ、それじゃあね」
「うん、途中までね」
いつも通りだった、こう話して。
そのうえで今日も二人で夜を過ごした、途中まで。
そうしてまた彼は帰って行った、彼が帰るべき場所に。そうした日が続いていってだった、私は迷っていって。
そのうえでだ、彼にまた会った時にこう告げた。
「今日で最後にしたいけれど」
「えっ、まさか」
「そう、そのまさかよ」
バーで向かい合って飲みながらだった、私は左手で自分の髪の毛を左に払ってからそのうえで彼に告げた。
「別れましょう、私達」
「それはどうして」
「好きな人が出来たの」
私はここで嘘を吐いた、その時に視線が泳がない様に注意した。
「あな
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