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剣の丘に花は咲く 
第十三章 聖国の世界扉
第四話 入国
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けると―――。

「―――は?」

 男の口から間の抜けた声が漏れ、詠唱が途切れた。瞬間、聖堂騎士たちの握る聖杖の先から伸びてきていた炎の竜巻が、大きく揺らぐと溶けて消えてしまう。聖堂騎士が得意とする賛美歌詠唱の呪文は、彼らの血の滲むような訓練と統率により始めて完成する奇跡のような呪文であり。詠唱の途中で誰か一人でも詠唱に失敗すれば、魔法は失敗してしまう。一人の失敗が全てを台無しにしてしまうのは、聖堂騎士ならば誰もが知っていることだ。
 にも関わらず、その聖堂騎士の男が間抜けなように惚けたような声を上げてしまったのは、自分たちの隊長であるカルロがいた場所に―――。

「何時の間に―――ッ!?」

 自分たちの隊長であるカルロが立っていた場所に、何時の間にか敵である男が、腰を落とし拳を突き出した格好で立っていた。
 呪文詠唱により軽いトランス状態に陥ってはいたが、視界には隊長であるカルロの姿を捉えていた。なのに、気がつけばそこに隊長であるカルロの姿はなく、敵が拳を突き出して立っていたのだ。現状が理解出来ず、思考が停止する。だが、鍛えられた肉体と精神は混乱する意識とは別に既に行動を開始していた。聖堂騎士たちの足は地を蹴りつけ、敵から離れるように後方に飛ぶ。足先が地面に着地すると共にようやく隊長がやられたと現状を把握した聖堂騎士たちは、先程まで隊長が立っていた位置に向け一斉に杖先を突きつけ―――男の目が驚愕に見開かれる。

「―――なっ?!」
 
 杖を突き付けた先に敵の姿はない。
 男の頭に一瞬『幻術か?』との思考が走る。
 
「―――ゲッ!?」
「っご!」
「がッ?!」

 別方向に飛んで逃げた聖堂騎士たちのくぐもった悲鳴が聞こえ、慌てて悲鳴が聞こえた方向に顔を向ける。視線の先、そこには仲間の聖堂騎士の姿はなく、先程と同じような格好で立つ敵の後ろ姿が見えた。仲間は敵から十メイルは離れた位置で折り重なって倒れている。まるでオークの突進を受けて弾き飛ばされたかのような姿だ。

「この化物がッ!」
「貴様一体何をしたっ!?」
「異端がぁあぁっ!」

 男の背後にいる騎士たちも仲間がやられた事に気付いたのだろう。口々に罵りながら士郎()の背中に杖を向け詠唱を始める。男も喉からせり上がってくる悲鳴を押しのけ、呪文を唱え始めるが―――。

「―――ぁ」

 一瞬目がどうかしてしまったのかと思い、詠唱の途中で息を飲んでしまう。
 敵の背中が急に大きく見えたからだ。
 間延びする思考。急激に重さを増した口と身体。後ろで詠唱している仲間の声は耳に届かず、ただ、段々と大きくなる敵の背中だけが思考を占める。世界と男の時間がズレ、妙に穏やかになる思考の中、男は悟った。敵の背中が大きくなっている理由を。別に巨大化して
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