第8話 休暇
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用する客は非常に多い。いまも三分置きに、ハイネセンポリス方面や近郊の衛星都市への列車が慌ただしく発車していく。
大きなトランクを押す家族連れ、太った年配の旅行者、黒いスーツにビジネスバッグといった前世が懐かしくなる姿もある中で、俺は座りたいが為にしばらく列車を待つという、相変わらずせこい考えでホームに設置されたベンチに腰掛けていた。リニアに乗り込んでいく人の群れを見送りつつ、空港内のキヨスクで買ったパンを囓っていると、一つ席を挟んだ右隣に座っていた顔色の薄い三〇代後半くらいの女性がいきなり胸を押さえて苦しみだした。
突然のことで俺も一瞬何が何だか分からなかった。というか、なにかのドッキリ番組かと思うくらいのタイミングだった。思わずどこかで撮影しているのかと思って俺は辺りを見回したが、視界にはいるのは忙しそうに列車に乗り組む乗客ばかりだ。誰も女性の異変に気がついていない。
あるいは気がついていても無視しているのか……経済的にもやや斜陽な同盟にあって、ここは中心からやや外れているとはいってもハイネセンのはずだ。近年経済も治安も悪化していると言われる辺境領域ではない。それとも時間に追われ、面倒には関わりたくないということか。となると、時間に余裕があって、家に帰るだけの俺が対処するしかない。
「大丈夫ですか?」
俺は出来うる限り最高に『穏やか』な口調で女性に話しかけると、きつく閉じていた両目のうち左目が僅かに開いて俺を見つめる。黄みがかった薄茶色の瞳には力が感じられない。
「だいじょう、ぶ、です」
どう見ても大丈夫ではないのに、そう言葉を続ける。俺はあまり容姿に自信がある方ではないが、少なくとも前世のように心配して若い女性に声を掛けただけで痴漢扱いされるほどではない……はずだ、きっと。しかも士官候補生の制服を着ている。身元もばっちりだ。少なくとも周囲から痴漢呼ばわりはされないだろう。
「大丈夫なわけないでしょう。これから医務室に連れて行きます。身体を持ち上げるので力を抜いてください」
俺は女性の右脇に左肩を入れ、女性の身体をベンチから持ち上げると、今度はゆっくりと腰を曲げて女性の膝裏に右腕を差し込む。いわゆる『お姫様だっこ』の状態だ。女性の身体は見るからに痩せていたが、意外と重い。
「荷物は何処です?」
俺の問いに、女性は小さく首を振る。それを『ない』と判断した俺は、腰に力を込めて歯を食いしばって立ち上がる。太腿と背中に負荷がかかるが、“ウィレム坊や”の“砂袋体操”に比べれば大したものではない。
すぐに周囲に目を走らせ、階上の改札口へと向かう。久しぶりの負荷に足はきつかったが、徐々に慣れてくると、スムーズに足が出てくる。だがその足に後から衝撃が走った。
「イテェェェ!!」
「お母さんを何処に連れて行
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