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【銀桜】2.廃病院篇
第4話「怖いものは人それぞれ」
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「抜けてねぇっての!!」
 降ろされた銀時はスクーターにまたがり、ヘルメットを双葉に投げ渡した。
 双葉が座ったのを確認すると、銀時はスクーターを走らせた。
 しばらく時間が流れる。
 その間は風をきる音しか聞こえない。
「なぁ。双葉」
 不意に口にする。
「なんだ」
 冷めきった妹の声。
「お前さ、ビビったか?その、俺が落ちてベトベトの血だらけになった時……」
 自分の元へ駆けつけて来た時の双葉の表情(かお)
 焦りと不安が入り混じった声で、何度も自分を呼んでいた。
 ただ。意識がもうろうとしていたから、思いこみかもしれない。
 聞いてはみたが、双葉は多分答えないだろう。
 横目でチラリと伺う。だが顔を伏せていて分からない。
 待ってみたが、返事はない。そうして目線を戻した時だった。
「……少し」
 本当に、本当に小さな声だった。
 頬が赤く染まった双葉はそれ以上口にしなかった。
 それを知ってか知らずか、銀時は意地悪な笑みを浮かべる。

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「ああ?なんだって?よく聞こえねェからもっかい言ってくれ」
「なんでもない」
「今ビビったつったろ」
「言ってない」
 否定すればするほど、双葉の頬はさらに赤くなる。
 銀時はその様子を面白そうに眺める。そして答えがわかっている質問をあえてしてみる。
「ホントかぁ?」
「うるさい。私は兄者の心配なんてしてないんだからな。誰が泣きそうになんか……」
「へいへい」
 気のない返事をして運転に集中する。
 一人だけ得した様な軽々しい態度。それが気に入らないのか、今度は双葉が念を押し始める。
「本当だぞ」
「わーってるよ」
「本当にわかってるのか!」
 ムキになった双葉は、勢いよく銀時に寄りかかった。
 その反動で手元が少しぐらついた。だがその直後に起きた事の方が、さらに手元を狂わせた。

“もにゅ”

――げっ!胸が……!!
 双葉の豊満な胸を背中で感じたのも束の間――急にバランスが崩れ、ハンドル操作が狂ったスクーターはあらぬ方向へ行ってしまう。
「おわっ!バカ!危なッ!オィィィィィ!!」
 兄の叫びと共に、スクーターは夜道を走り去って行く。
 左右にぐらつきながら二人を乗せて。

=終=
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