第十一章
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第十一章
「若林も小山もいたし」
「はい」
いきなりかなり古い。
「江夏村山」
「中継ぎ課」
不振期に阪神を支えた中次ぎ陣をこう呼んでいたのだ。どれだけ不振であった時もピッチャーには滅多に困ってこなかったのである。
「そういうことよ。甲子園で憎き巨人を打ち負かす」
「阪神のピッチャーがですね」
「いいわねえ。純ちゃん」
純のことをさらに気に入ったようであった。笑みがさらに明るいものとなっていた。
「増々気に入ったわ。いいわ」
「有り難うございます」
「それじゃあ。丁度スパゲティもピザも食べ終わったし」
どちらも量はかなりあったがあっという間であった。食べる量が多いのもまた二人は実によく似ているようであった。
「それじゃあ。いよいよ」
「はい」
「ジェラートね」
「もう野球はじまってますよね」
純は自分の腕時計を見た。左手にあるそれも赤くカラーリングされている。時計の色までお母さんの時計と同じだった。実は特別にカラーリングしているのだ。
「いえ、そろそろでしょうか」
「そうね、そろそろね」
お母さんも時計を見る。その動きまでもが一緒であった。
「はじまるわね」
「食器をなおして」
「ああ、いいわよ」
純がなおそうとするのは止めた。
「智哉にやらせるから」
「俺かよ」
「料理は女の子の仕事よ」
これはただ単にお母さんが料理好きだから言っているだけである。しかしこの家ではお母さんの言葉がそのまま法律になるからそうなっているのだった。
「だったら食器をなおすのは」
「男の仕事だっていうのか」
「いつも言ってるでしょ」
智哉に対してはつっけんどんなお母さんであった。
「このことは。違うかしら」
「それはそうだけれどさ」
「だったら文句はないわね」
有無を言わせない口調であった。
「いつも通りだしね」
「まあね。それじゃあ」
「何か私の家と同じなんですけれど」
ここで純はまた言うのであった。
「男の人が食器をなおすのって」
「これもそうなのね」
「はい、私の家はお父さんと弟ですけれど」
何処となく智哉の家と似ていると彼は思った。妹が弟になっただけで。つまり男女の兄弟順が入れ替わっただけなのであろう。
「それでも。そこは」
「ついでに洗うのもね」
「はい、そうです」
これで何度目かわからないがこれまた同じなのであった。
「お父さんと弟の仕事なんです、うちは」
「うちもよ。その通りよね」
お母さんの満面の笑みは続く。それと共に言葉もであった。
「女が料理をしたら男が食器を洗う」
「その通りです」
「昔は男子厨房に入らずって言ったそうだけれどな」
智哉は二人に聞こえないようにポツリと言った。思えば古臭い言葉であり最早死語である
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