第7話 魔術師 入学
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話し続けた。
「まず補給部隊を粉砕。あるいはそう見せかけつつ、次に敵の主力部隊を集中砲火により個別分断し、たちまち旗艦周辺を丸裸にして撃破する。相手が奇妙な位置に旗艦を置いたとしても、まるで『最初から知っているかのように』攻撃し、短時間のうちに撃滅する。全ての事象を知る『悪魔』のようだ……そうです」
「別に最初から知っているわけではないんだが」
俺は自分の無神経な行動で、転生者であるという事実が意図せず漏れてしまったかと内心びくびくしながら、一言ずつ答えた。
「戦場において敵の全てを相手にする必要はない、と俺は思っている。補給艦を真っ先に狙うのは、相手の戦闘可能な継続時間を短くし、撤退に追い込みたいというせこい考え方から出ているにすぎない」
「……」
「極端なことを言うと戦わずして最重要目標を達成するのが一番望ましい。シミュレーションはあくまでも仮想的なものだが、戦闘艦一隻に百人以上の将兵が搭乗している。目標を達成するのに犠牲が出るのはやむを得ない場合が殆どだが、犠牲は極力減らしたいし、俺自身も死にたくない。つまりそういうことなんだ」
俺がそこまで言い切ると、ヤンは黙ったままじっと俺の顔を見つめていた。ヤンには同盟の生存のために、必要不可欠な人材だ。とりあえずは二年生になった時、一〇年来の天才を打ち破ってもらわなくてはならない。
こんなご教授など本来不要なのだろうが、言わずにおれない転生者の度し難い性なのかもしれないが。
「遠い昔、『戦わずして勝つことが最上』と言っていた希代な兵法家がいたそうです」
「たしか孫子だな。そのうち戦史科目でテストに出るぞ」
「それは……ありがたいですね。進級に自信が持てそうです」
俺の即答に、ヤンは笑みを浮かべ、紙コップの底に残る紅茶を惜しみつつ、肩を竦めて応えた。
「私は歴史を学びたかったのですが、運がいいのか悪いのか、母は幼い時に、父親はつい最近事故でなくなりまして」
それは知っている……とは俺は言えない。ただ「そうか」と頷くしかない。
「いささか資金的に苦しい中、タダで歴史を学べるところはないかと探した結果が、ココでした。私自身、自分のやれる範囲での仕事をしたら後はのんびりと暮らしたいと思っているんです」
「……それは怠け根性だな」
俺はしばらくの沈黙の後に、応えざるを得なかった。意外と諦観をない交ぜにした苦笑を、ヤンは俺に向けている。話の分かる先輩だと思っていた俺に、軽く失望しているのかもしれない。
「たった三歳しか年上でない俺が偉そうに人生論を言うのもなんだが、興味がないことと才能がないことは一致しない。興味がないことでも将来興味が湧くこともある。今ある自分が全てである、と判断するのは人生を怠けていると俺は思うよ」
「はぁ……」
「かくいう俺も、校長閣下に
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