第7話 魔術師 入学
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思い出したように「あ」と口に出して俺に言った。
「『戦略研究科の悪魔王子』のお噂は常に耳にしています。特に「戦略戦術シミュレーション」の対候補生戦における戦いぶりは、戦史研究科でも有名です」
「……それは今まで聞いた事がない異名だが、褒められていると思っていいのだろうか?」
悪魔と言われて思わず俺は右手で側頭部を撫でてみたが、今のところ角が生えた様子はない。俺の児戯のような仕草に、ヤンも苦笑を隠せないらしい。口を手で押さえて体を震わせている一六歳のヤン=ウェンリーというのもなかなか見ていて面白い。
「ボロディン先輩が他の候補生と会話する目的は、相手の弱みに探りを入れることであって、それが「戦略戦術シミュレーション」での勝利に通じているらしい、そうです……これはあくまでも噂ですが」
図書ブースで長々と会話するのもまずいと思い、俺はヤンをカフェに誘った。どうやら授業がない(本当かどうかはわからないが)らしいヤンは素直に付いてきたが、先ほどの『悪魔王子』について聞くと紙コップ入りの紅茶を傾けながらそう答えた。
「相手の癖や性格を知ろうとして会話している事は否定しない。だが『悪魔王子』とはどうしてだ?」
顔も容姿もごく平凡なロシア系で、この世界で俺の事を『カッコイイ』と呼んでくれたのは、唯一義妹のアントニナだけという経歴なのに、『王子』というのは強烈な違和感だ。
「……お気を悪くすると思いますが」
「わかった。亡父が准将で、養父も准将だからだな。では『悪魔』とは」
「それは先輩のあまりにも苛烈で容赦ない対艦隊戦闘指揮がそう言わせていると思います」
俺はヤンの答えに首をかしげた。
確かに『敵艦隊撃滅』を最優先目標とするシミュレーションにおいて、艦隊を攻撃する手を緩めたことは一度もない。だが対有人戦では特殊な例を除き戦力差のない一対一の勝負になる。容赦なく戦うのは対戦相手によっては通信妨害下でこちらの側腹を急襲してくる場合であり、その時にはバーミリオンで奇しくもヤンがラインハルトを追い詰めたように、陣形をC字に変更して一気に回頭し包囲戦へと移行するという場合ぐらいだ。意図して苛烈に戦うこともない。敵旗艦および分艦隊旗艦を撃破すれば勝敗は決する。長時間味方を戦線に置いていらぬ犠牲を払わせてまで敵を殲滅する意味などないし、俺はそういう指示をシミュレーションで出したことはない……敵が金髪の孺子でない限り、実践することはないだろう。
「苛烈で容赦ない戦いぶりと言われるのはいささか心外なんだが」
「……私は用兵というものにあまり興味を持っていないので、これは友人の受け売りなのですが」
戦略研究科の俺に対し、初年生が四年生に『用兵学に興味がない』と告げるのは、いかにヤンであっても勇気がいったのだろう。一旦俺から視線を逸らしてから
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