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優しさをずっと
第八章
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第八章

「まだわからないのか」
「わかっていないのは貴方です」
 今度は先生が平生に告げた。
「平生先生、貴方だ」
「ああん!?」
「貴方は優しさを知らない」
 平生を見据えての言葉だった。
「そして。人の心も知らない」
「何を言ってるんですかな、阿倍先生」
「人はどうして人であるか」
 最早平生の言葉は雑音に過ぎないものになっていた。先生の言葉が今力になっていた。
「それは優しさがあるからです。優しさをわかろうともしない貴方はもう人ではない」
「うだうだ言ってないではじめるぞ」
 まだ平生はわかっていなかった。
「こうなったら教えてやる。俺の竹刀の味をな」
「先生・・・・・・」
「わかってるね」
「はい」
 もう生徒達は平生を恐れてはいなかった。澄みきった笑みで先生に応える。
「勝てます。いえ、勝ってます」
「そう。君達は勝っているよ」
「既に」
「じゃあどっちが勝ってるか身体でわからせてやる」
 もう剣道の構えさえ取っていない平生だった。右手で竹刀を乱暴に振り回している。
「ここでな。覚悟しろ」
「お待ちなさい」
 だがここでまた声がした。
「ああん!?今度は誰だ?」
「平生先生、これ以上の蛮行はお止めなさい」
 見れば双方の前に一人の老紳士が立っていた。小柄だがその痩せた身体に空色のスーツとえんじ色のベスト、それに青いネクタイを身に着けていた。その紳士が平生に対して言ったのである。物静かで穏やかだがそれでいて確かなものを備えているその声で。
「それ以上は私が許しません」
「校長・・・・・・」
「校長先生・・・・・・」
 阿部先生と生徒達が紳士の姿を見て言った。
「どうしてここに」
「いらしたんですか?」
「全ては見せてもらいましたよ」
 校長先生は腰の後ろのところで手を組みながら先生達に話す。
「何もかもをね」
「何もかもをといいますと」
「前から噂になってはいました」
 ここで平生の方をちらりと見る。平生はまだ竹刀を粗暴な仕草で右手で持っていた。
「平生先生の生徒への虐待は。どうやら誰かが教育委員会や警察に通報していまして」
「警察までですか」
「そうです」
 こう先生達に述べる。
「過度の虐待は言うまでもなく刑事犯罪になりますので」
「刑事犯罪ですか」
「そうです」
 阿部先生に対して答える。
「前から保護者の方から噂も聞いていましたし。注意して見てはいました」
「そうだったんですか」
「残念ですが色々と制約がありまして」
 教師の世界は様々な制約、そしてしがらみが存在している。その為平生の如き問題のある教師が跳梁跋扈しているのが現実なのだ。
「中々処断を下すことができませんでした。しかし」
「しかし?」
「それも今で終わりです」
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