第六章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第六章
「黙想」
「黙想」
武道の最後の締めであった。これで稽古を終える。それが終わってからお互いに礼をして解散になった。先生はそのまま自分の教室に帰った。けれど生徒達は。着替え室に集まって。そこで話をしていた。
「ねえ皆」
「うん」
深刻な顔を見合わせ話をしていた。着替え室には彼等の他には誰もいない。
「どう思うかな」
「先生のことだよね」
「そう、阿部先生」
もう彼等にとっては先生はあの先生になっているのだった。しかしそれははっきりとは自覚はしていない。おぼろげなままである。
「阿部先生は僕達の為に平生先生と試合するっていうけれど」
「どうなると思う?」
「勝てるわけないよ」
「そうだよ」
彼等はもうこのことは完全にわかっていた。
「絶対にね」
「あの人には勝てないよ」
「そうだよね」
リーダー格の一人がここで皆に対して言う。
「絶対に無理だよね、やっぱり」
「ボコボコにやられちゃうよ」
「あの人にはどうやっても勝てないよ」
「けれどそれなのにさ」
別の一人が口を開いてきた。
「先生。あんなこと言うんだろ」
「怪我じゃ済まないよね」
「勝てる筈ないのに」
「幾ら僕達の為にって。無茶だよ」
彼等にはこうとしか思えなかった。
「何があっても勝てないのに」
「僕達の為にって」
「それが優しさだっていうけれど」
「優しさ・・・・・・」
この言葉を誰かが口にしたところで。皆の中に何かが宿った。
「優しさなんだ」
「優しさが」
「そう、優しさだよ」
皆口々に言いだしてきた。
「優しさがあるから。だから」
「僕達の為にあの先生に」
他ならぬ先生の言葉を思い出し言い合う。
「向かうんだよ。何があってもって」
「あんな相手に」
「だったらさ」
連鎖反応のようにまた誰かが言う。
「僕達も優しくなろうよ」
「僕達も!?」
「そうだよ。僕達もね」
「優しくなるってどうやって!?」
「どうするの?」
「僕達も行くんだ」
彼が強く輝く目で皆に話していた。
「僕達もね。先生と一緒で」
「一緒って。まさか」
「ひょっとしてそれって」
「そう、そのまさかだよ」
「行こうよ」
別の一人が話に乗ってきた。
「僕達全員でさ」
「けれど。平生先生だよ」
気の弱い少年が青い顔をしていた。
「何するかわからないよ。それでもいいの?」
「何かしたって先生は僕達の為に行くじゃないか」
「そうだよ」
しかし皆はその彼に対して強い声で言うのだった。
「じゃあ僕達だってさ」
「行こうよ」
「行くんだ」
彼は皆の言葉を受けて自分の考えが変わっていくのを感じた。それと共に青くなっていた顔が少しずつだが変わっていきもする。それはわからなかった
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ