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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第6話 士官学校 その4
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か? おべんちゃらを駆使できるほどこの口は達者ではありませんが」
「おべんちゃらを言うだけが政治家の適正ではない。君には国家戦略レベルの視野があり、自由惑星同盟と民主主義という制度を守るという最優先目標を見失うことのない意志があり、目標に向かって努力するという才能があり、士官学校校長に真っ向喧嘩を売るだけの度胸があり、そして人が死ぬという戦争という社会現象を必要と知りつつも心底嫌っている。そういう人間が簡単に戦争で死なれては国家にとっての大きな損失だ」
 そこまで言って、シトレはその長身を椅子から持ち上げ、俺の目の前まで歩み寄ると真っ正面に立つ。前世では一七〇センチだった俺の身長は、一六〇センチを若干越えたばかりであったから、二メートルのシトレが目の前に立つと、完全に仰ぎ見る形になる。
「君が一般大学に進学し、官僚で実績を備え、政治家として最高位になるにはあと三〇年は必要かもしれない。だが、その三〇年後から同盟が帝国とほぼ同レベルか若干上回る国力を手に入れる道を歩みはじめる」
「それは買いかぶりすぎです。校長」
「そう買いかぶりでもないさ。もし君が二人いるなら、一人は軍人として統合作戦本部長、もう一人が最高評議会議長となってもらい、二人で同盟を切り盛りしてもらいたいものだ。もっとも私は君の指揮下では戦いたくないから、その頃には故郷で養蜂でもしているがね」

 ここで俺が原作の知識を披露できたらどれだけ気が楽になっただろう。一八年後に同盟は帝国に無条件降伏。一九年後には滅亡すると。滅亡から逃れるためには金髪の孺子を確実に倒さねばならないことを。

 だがここで「私は別世界から転生してきた人間で、これから未来はこうなります」などと言えば、正気を疑われる事は間違いない。シトレの俺に対する評価は地に落ちるし、下手をすれば放校処分だ。

 またたとえ政治家に転身したとしても、ジェシカ=エドワーズと同じように議員になることは出来ない。まず彼女と俺とは明確に政治スタンスが異なる。与党政治家としての道を進んだとしても、帝国領侵攻前に最高評議会の席に座ることは不可能だろう。分厚い評議会議員候補が俺の前に並んでいる。トリューニヒトのケツを舐めるというのであれば、もしかしたら可能性もあるだろうが。

「自分は軍人の道を進みたいと思います」
 俺の言葉に、シトレは心底残念そうな表情を見せた後、俺の両肩に大きな手を乗せて言った。
「それも君の意志だ。尊重しよう。アントンも妙なところで頑固なところがあったが、やはり君は彼の血を引いているな」
「ありがとうございます」
「では今日これから、私と君は士官学校の校長と一候補生だ。分かったな?」
「承知しました。シトレ校長閣下」

 俺は久しぶりに気合いの入れた敬礼を、シトレに向かってするのだった。


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