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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第6話 士官学校 その4
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は僅かであっても失敗しているのだ。数隻の巨大輸送艦に搭載されていたであろう物資が輸送先に届かなかったことで今後の戦略を左右することもあるだろうし、数百の護衛艦には一万人以上の将兵が乗り組んでいる。それを失っているにも関わらず、何故満点+追加評価点なのかが理解できない。「戦略戦術シミュレーション」は『ゲームのようなもの』ではあっても『ゲーム』ではないはずなのに。

 思い悩んだ末に俺は「戦略戦術シミュレーション」の主任教官に質問をぶつけた。戦略最優先目標の達成に僅かであっても失敗しているにもかかわらず満点+追加点を与えるのは、いかなる理由なのか……

「実際の戦場において、戦略最優先目標を完璧に果たすことは不可能だ。日々システムを更新しているが、現実には、シミュレーションでは補いきれない不確定要素も数多く存在する」
 主任教官は、俺が“ウィレム坊や”と一悶着あったことを既に知っており、またグレゴリー叔父の養子である事も知っている為か、頭ごなしではなく聞き分けのない子供を諭すような口調で答えた。
「故に戦略最優先目標には『ある程度の損害』が発生することは織り込み済みなのだ。そして実戦においては想像もしていなかった危険な事態というのも発生する。この場合は『敵艦隊の奇襲』だ。それを最小限の犠牲を持って排除し、なおかつ戦略最優先目標を達成したのだから、満点であり追加点を与えることになったのだよ」

「物資を搭載した輸送艦を失うことも、数百隻の護衛艦艇を失うことも『想定される損害』であるのですか?」
「さよう。……なるほど君は確かにこのシミュレーションでは一隻の輸送艦も失っていないし、護衛艦艇も三〇隻しか失っていない。戦略最優先目標は達しているが、君は敵艦隊からは逃走している。君がこの命令を出した上官だとして、今後この宙域に戦略輸送を行わせるに際し、敵艦隊の奇襲の懸念を持たざるを得ないだろう」
「はい」
「その危険性を一度に排除したと考えれば、ホーランド候補生の評価は正しいものだと考えないかね?」

 主任教官の問いかけに、俺は何も言うことが出来なかった。

 最優先目標に被害が想定されているというのは分からないでもない。宇宙船技術がほぼ完成されたと言っていい状況下ではあるが、想定外やメンテナンス不足などによる事故は発生している。
 敵艦隊が戦略輸送のルートに存在しているという伏線設定も、また分からないまでもない。情報部が想像以上にヘボで役立たずで、輸送ルートに一個艦隊規模の戦力がいる可能性を本部に伝えない可能性もなきにしもあらずだ。もちろん知らせておいて同数戦力を護衛として送り出す司令部もどうかしていると思うが、前提条件についてとやかく言う必要はない。

 だが複数命令を与えて、それを達成させることで評価を加算していくやり方は明らか
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