ユグドラシル編
第14話 “シャローム”
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せいぜい献血ですむ程度にしてもらえるくらい、張り切って検体やるさ」
「けど、それじゃお前と碧沙ちゃんは……!」
どれだけ切り刻まれるのか。どれだけ辱められるのか。
「俺はベルトで生き繋いでる10億人より、笑顔で暮らす70億人がいい。その70億の中から、俺と碧沙と二人、あぶれても」
「裕也……っ」
打ちのめされた。裕也の覚悟は本物だ。紘汰の中には裕也を心動かすだけの言葉が湧いてこない。
紘汰はただただ拳を握って俯くしかできなかった。
****
裕也は医療部門がある棟の被験者用フロアに帰り着き、真っ先に碧沙の部屋を目指した。
「待合室T」のプレートがかかったドアを開ける。碧沙はベッドの上で、髪を流して膝を倒して座っていた。
裕也が呼びかけると、茫洋としていた目に光が戻り、唇が笑みを描いた。
「おかえりなさい」
やわらかい声。やわらかいまなざし。それらは裕也の沈んだ気分を少しだけ上向けた。
「ただいま」
「変身したんですよね。ケガ、しませんでした?」
「ああ。変身したっつっても誰かと戦ったわけじゃないから」
答えながら裕也は、碧沙の隣に腰を下ろした。
男と女が一つベッドの上。碧沙が妙齢であればその手の雰囲気になりかねない。それこそユグドラシルの望む所だろうが、裕也にその気はない。
「心配してくれた?」
「はい」
「ありがと」
碧沙は頬を染めながらも、裕也に対して笑ってくれた。
「誰と会ったんですか?」
「ん?」
「誰かと、って言ったから。戦わなくても会いはしたんだな、と思ったんですけど……」
彼女は鋭い。こうやって端々から情報を汲み上げて正解に辿り着く。こんな妹がいたのでは、光実が隠し事上手になるわけだ。
「紘汰に会った」
「同じチームの人ですよね?」
「ああ。俺とミッチのチームメイト。で、俺と同じドライバー被験者。怒ってたよ。プロジェクトアークのこと」
裕也も碧沙も、自分がプロジェクトに使われるのはいいと思って被験者をしているが、プロジェクトアークについては反対だ。60億人の犠牲者を出す救済計画など、まともな神経で賛成できるものではない――ないのだが、一被験者に過ぎない彼らには口を出す権利がない。
だから裕也は、アーマードライダーになるか、という凌馬の気まぐれな誘いを受けた。
戦士として成果を上げることで中枢に食い込み、意見を通せるだけの立場を手に入れる。
それが角居裕也が選んだ戦い方だった。
「大丈夫。俺がなんとかしてみせるから」
碧沙は恐縮したふうを見せた。小動物のようで愛らしい。なので、犬猫にするように撫でてみ
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