ユグドラシル編
第14話 “シャローム”
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。裕也の両腕の皮膚は注射針の痕だらけだった。
「ヘルヘイム抗体、ってプロフェッサーは呼んでる。それが俺の血にはあるらしい。だからヘルヘイムの果実を食っても、完全にはインベスにならないで、人間とインベスの間を行き来するような状態になってた。そこをユグドラシルの調査隊に拾われてな。あれこれ打たれたり抜かれたりしてきた」
紘汰は思い出す。噴水公園で、ダメージを受けてビャッコインベスから人間になった裕也。戦極凌馬が語った、果実を食べた人間の末路。
「碧沙はその抗体が俺より何倍も強くて、ヘルヘイムの果実を食ってもインベスにならないんだってさ。俺はあの子の血から作った免疫血清、まあ分かりやすく言うとワクチンだな、それを打たれてこうして完全に人間に戻れた」
「インベスを人に戻せるのか!?」
「いいや。プロフェッサーによると、俺みたいに元から抗体持ちじゃないと無理らしい。試しに森のインベスの何体かに試薬を打ち込んだけど、ダメだった」
「そんな……」
裕也は袖を元に戻しながら淡々と語りを続けた。
「その成功を受けて、予備として用意された人類救済策が、プロジェクトF。抗体持ちの碧沙と、碧沙の抗体で人間に戻った俺の間に子供を造らせて、ヘルヘイム感染に負けない新人類を造るって計画だ。俺ら二人で10年の間に何人産めると思ってんだって思ったけど、そこはさすがユグドラシル、成長促進剤とかクローン技術とか、バイオ方面何でもアリアリ。いくら何でもご都合主義過ぎるだろ」
「だからって……やっていいことと悪いことがあるだろ! それは裕也自身のやりたいことなのかよ!」
「やりたくないに決まってるだろ!!」
ここで初めて裕也が感情を露わにした。
「相手はコドモなんだぞ!? 俺たちみたいにドロップアウトなんてしなくていい。まだいくらでも未来がある。そんな子を、人類のためだからって、子供を産む機械みたいに扱えるかよ!」
叫ぶ裕也を見て、紘汰の胸に熱が込み上げた。変わらない。裕也は裕也のままだ。紘汰たちがリーダーと仰いだ男だ。
(やっぱりダメだ。裕也をこんなとこにいさせちゃいけない。裕也は光の下にいないとダメだ)
「だったらその碧沙ちゃんも連れてここから逃げよう!」
「それだとプロジェクトアークのほうが進む。10億人しか生き残れない計画を前にして、お前、見なかったフリして引き返せるか? 無理だよな。ここまで乗り込んでんだから」
「あ……」
指摘され、紘汰は返す言葉を失った。裕也に対面するまでに抱いていたのは、確かにプロジェクトアークとそれを企てるユグドラシルへの憎悪だった。
「俺と碧沙の代で徹底的にヘルヘイム抗体を調べ上げて、ユグドラシルには免疫血清を造る技術を確立してもらう。子供をモルモットにさせる気はない。
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